《職場のハラスメントへの理解と取り組み》

  

会社の職場などで、職権などの権力差(パワー)を背景に、本来の業務の範囲を超えて継続的に、人格と尊厳を傷つける言動を行い、就労者の働く環境を悪化させる、あるいは雇用への不安を与える行為を「職場のハラスメント」といい、職場に大きな悪影響を与える労働上の問題なのです。

  

職場のハラスメント

 

職場におけるハラスメントとは、仕事の流れの中で、または仕事の直接的結果として人が攻撃され、脅され、傷つけられる、といった業務遂行上適切な行為から逸脱したなんらかの行動、事件、もしくは行為と考えられます。

ここでいう直接的結果とは、仕事と明確な関連性があること、また、その行動、事件もしくは行為が仕事後の妥当な期間内に発生したこと、と解釈されます。

職場のハラスメントは、労働者同士のいわば内輪の場合もあるし、労働者と職場に居合わせた外部の人間との間の場合もあります。

場のハラスメントの影響は、欠勤、病気休暇、事故発生率の向上、不当な人事異動や解雇など様々な悪影響を引き起こし、これらの現象は、生産性の悪化をもたらす結果となります。

職場のハラスメントを防止する取り組みは、職場で働く人の意欲を高め、より生産性を高め、よりよいサービスを提供していくことにつながります。

職場のハラスメントは、労働者の健康と幸福に重い犠牲を強いる暴力行為です。攻撃され肉体を傷つけられると、健康が脅かされ、精神的に大きな苦痛を与え、時には自死に追い込むこともあるのです。

原因はどうあれ、心理面にも苦痛を与える重大な労働上の問題なのです。

暴力や個人的攻撃によって肉体的苦痛が生じたとき、それが働く上での安全や安心、心の健康に与える悪影響を無視することはできません。

 

個人への攻撃は、そこに至るまでの積重ねがなくて起きることはまずないのです。

職場の緊張を高め、職場のハラスメントへとつながりかねないサインには、次のようなものがあります。

・虐待
・攻撃的な身振り・態度
・権力を悪用した行為の強要 
・暴力を煽る意図的な発言

・性的な嫌がらせ

・不当な異動や解雇

労働者は職場のハラスメントにさらされると、誰もが身体的・精神的苦痛を受けるのです。

 また、最近では業務が原因での「うつ病」は非常に増えて、労災認定となるケースも多くなってきています。

  

【ハラスメントの対象者】

 ●役職者が部下に対して

 ●正規雇用者(正社員)が非正規雇用者(パート・アルバイ)対して

 ●部下が上司に対して

 ●同僚が同僚に対して

 ●先輩が後輩に対して

 ●職場ぐるみで

 ●組織ぐるみで

  

【ハラスメントの種類】

 ●セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)

 相手の意に反する性的言動による嫌がらせやいじめなど

 ●パワー・ハラスメント(パワハラ)(ボスハラ)

 職場の権限などの力関係による嫌がらせやいじめなど

 ●モラル・ハラスメント(モラハラ)

 自己愛的性格特性を持つ上司・同僚などから受ける言葉や態度による嫌がらせやいじめなど

  

【パワー・ハラスメントの影】

 特定の部下を標的に執拗で無理な要求をさせる、言葉や態度による暴力よる、罵倒や冷遇、退職勧奨や退職強要などがあげられ、それが原因で職場のいじめに発展する場合もあります。

 ・また、教育や研修という名目で行われる場合もあります。

 ・受け手にとって嫌がらせであると判断されれば問題として表面化する可能性もある。

 ・そうでない場合には、被害者がうつ病が、PTSD心的外傷後ストレス障害といった精神疾患を発症したり、退職を余儀なくされてしまう場合もある。

 ・最悪の場合、自死に追い込まれてしまう事も少なくありません。

  

【パワー・ハラスメントの事例】

 

上司の暴言などパワー・ハラスメントによって男性社員が自殺した事件を労災と認定(東京地裁)

・ミスを犯した運転手に対して「日勤教育」「リフレッシュ研修」「訓練道場」

女性教諭が専門外の教科を押し付けられ、指導力不足教員に認定されて研修中に父の実家で自殺

男性教諭が校長からの罵言が原因で自殺、直後に他の教諭も校長から罵言を浴びせられていた事が発覚。その後校長は休職し、一般教諭に降格処分された。

・できそうにない量の課題を課した上にメールで度々提出を求め、未提出の場合の留年処分を予告された挙句、自殺直前にもメールでのやりとりを行い自殺を仄めかす内容のメールが送られことが原因で経済学部2年生の女子学生が自殺に追い込まれた。

・内部告発が原因で研修所に異動後は雑用を強いられたうえに昇給すらなく、暴力団からも脅迫され、冷遇されたとして2002年には訴訟を起こしている。

・携帯電話売場担当の派遣社員に対する暴行事件があった。

・上司に何度も呼び出され「この成績は何だ」「会社を辞めれば済むと思っているんじゃないか」などと叱責され、同年9月に自殺。

  

パワハラ苦で自殺 東京地裁が労災と認定2007.10

 

営業成績が良くなかったことから、14年に同営業所に赴任した50代の係長に「存在が目障り」「給料泥棒」「背中一面にフケがターっとついてる。病気と違うか」などとパワハラを受けた。

男性は14年12月ごろから鬱病の症状を見せ始め、15年3月に自殺した。

上司のパワハラを「男性の人格、キャリアを否定する内容で過度に厳しい」と指摘。その上で「男性の心理的負荷は、通常の上司とのトラブルから想定されるものよりも重い」と判断し、「男性は仕事のために鬱(うつ)病になり自殺した」と結論付けた。

  

【パワー・ハラスメントの判断基準は?】

 ◆その行為に業務上の正当性があったのかどうか

裁判例では、業務とは関係ない草むしりやガラス拭きなどを業務命令という名目で行わせた事例があります。

この場合は、業務命令が人事管理権に基づくものだとしても、「業務の範囲を超えて著しく苦痛をあたえる」といった 人権を侵害した不法行為に該当すると判断されました

  

【いじめの背景】

 

200712月発表の(財)日本産業カウンセラー協会「職場のいじめに関するアンケート調査結果」によると、

 ◆コミュニケーション能力の低下(80%

 ◆人材育成の希薄化(62%

 ◆人権感覚・モラル感覚の低下(54%

 ◆成果主義(50%

 が要因として指摘されており、職場環境が労働者に大きな影響を与えていると思われる。

  

【対処法】

 職場でのハラスメントの防止

 

・使用者には、職場のハラスメントに伴うリスク軽減とリスク管理を行うとともに、適切な苦情処理・懲罰手続を整備する責任(職場環境配慮義務)があります。

 ・情報・教育の提供も必要です。

 ・安全衛生委員会を通じて、適切なリスク査定の戦略や防止政策を開発・実施します。

 ・職場のハラスメント防止に関する情報を提供します。

 ・アンケートなどにより意識調査を実施し、結果に応じて社内教育などの啓発活動を行います。

 ・ハラスメント防止に関する研修コースを全労働者向けに実施します。

 ・相談窓口の設置と迅速かつ的確な対応を行います。

  

ディーセント・ワーク、労働倫理、安全、互いに対する尊敬、寛容、機会均等、協力、質の高いサービスなどを基礎にした建設的な職場文化の発展に、優先順位が与えられるべきです。

・質の高いサービスを達成するために人的資源が果たす重要な役割について、明確な目標設定を行う。

・組織とそこに属するすべての者が同じ目的を共有することに重点を置く。

・職場の暴力を予防することにコミットする。

経営トップは、職場のハラスメントを排除するための努力が重要であると認識し、その意志を明確な政策文書として発表し伝達すべきです。

職場のハラスメントは「健康と安全、サービスの効率、生産性、均等待遇、ディーセント・ワークのいずれにとっても大きな脅威」なのです。

すべての社会的パートナーが職場のハラスメント防止に取り組むならば、われわれは効果的な安全文化の享受に向かって一歩近づくことになります。

  

【モラル・ハラスメント(精神的虐待)の例】

 

モラル・ハラスメントは多くの場合、個人をターゲットにして攻撃を繰り返されます。

 

言動によるもの】

■過干渉

相手の気持ちや考えなどおかまいなく、自分の意見・考え方・やり方を押しつけてくる 

■自己の正当化

相手と少しでも意見が合わないときには、必ず自分を正当化し、最終的な決定をする

■相手を否定する

『お前はバカだ』 『どうしてそんな事も分からないんだ』 『何をやらせても駄目なヤツだ』 などと、相手を否定する

■馬鹿にして笑う

相手の欠点・失敗などを話題にあげては馬鹿にして笑う

■相手のせいにする

相手の行動を支配するために、非現実的な事を無理やりにあてはめようとする(『お前のせいでこんな目に遭った』 『お前がそんなだから子供がこうなった』など)

■過去を蒸し返す

過去に解決した事柄などを引っ張り出し、再び蒸し返して再度謝罪を求める 何度も自分に対して屈服させようとする

管理する

相手の考え方から行動にいたるまで、生活のあらゆる面を厳しくし、徹底管理しようとする

■怒鳴る・威嚇する

相手に対して怒鳴ったり、わめいたり、ののしったり、時には物に当たったりして相手に恐怖感を与え、威嚇する

■機嫌の変化が激しい

気分や態度を極端に変えることによって、相手から安心感を奪う

■表裏の差が激しい

外での顔と家での顔が全く違う 世間での評価は非常に高く、すばらしい人物と印象を持たれている事が多い

上司の前ではいい顔して

■人と比べる

「大卒のくせして」「やっぱり高卒だからな」「同期の〇〇さん、もう結婚して子供もいるぞ」

「女は使えないよな」「男のくせしてめそめそするな」「男が育休だって…」

■過去を蒸し返す

過去に解決した事柄などを引っ張り出し、再び蒸し返して再度謝罪を求める 何度も自分に対して屈服させようとする

 

【無視・無関心によるもの】

■逃避

相手の前から姿を消し、一切の関わりを持とうとしない

■放置・無視

相手と一緒に居ても暖かい交流を持とうとしない 話もしようとしない 話し掛けても聞いていない
無視する 存在を否定する 

 

【ディーセント・ワークとは】

「ディーセント・ワーク」とは、権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事を意味します。それはまた、全ての人が収入を得るのに十分な仕事があることです。

「働きがいのある人間らしい仕事」とは、まず仕事があることが基本ですが、その仕事は、権利、社会保障、社会対話が確保されていて、自由と平等が保障され、働く人々の生活が安定する、すなわち、人間としての尊厳を保てる生産的な仕事のことです。