【 職場のみんなからのハラスメント 】
設計請負会社のAさん(41歳)は、チームで派遣されて電子設計の仕事をしていたが、会社から業種転換の話が出された。理由は、「顧客から頻繁にAさんの仕事にクレームが来ている」ということだった。 「この仕事はあくまでチームでやっていることであり、個人の責任ではない」と主張したところ、さらには「チームの他のメンバーからも苦情が出てきており、『あなたとは一緒にやっていけない』と言っている」と言われた。 確かに、この仕事には年齢的な限界として「40歳説」があるので、「営業に変わる準備をしたほうがいい」というアドバイスは分かるが、まだ自分ではやっていけると思うし、頑張るつもりでいた。 そこで、仲間に苦情の真意を問いただしたところ、いじめが始まった。 仕事上の最低限の口しかきかず、連絡事項もメモで渡したり、これまでとは違った対応になってきた。 そして、それと機を一にして会社からはスキルアップの要求が次々と出された。仲間からも、技術についての批判めいた言葉が頻繁に出されるようになってきて、納期に間に合わないことについて会社に報告する際に「Aさんのせいで間に合わなかったのだから、あなたが会社に謝るべきだ」とまで言われてしまった。 他は全員20代で、年齢的にも、リーダー的な立場にあったが、とてもチームをまとめていく自信がなくなった。そこで会社に「リーダーからはずすか、30代の人間を入れて欲しい」と訴えた。 ところが、会社は「年齢は関係ない。リーダーをはずすなら、給料を大幅にダウンするがいいか」と言ってきた。主任手当のようなものがあり、「その部分のダウンは了解できるが、それ以上にカットされるのは納得できない」と主張すると、「給料の中にもリーダーとしての役割を見込んだ部分が多く入っている」と言われた。 チーム内での年齢ギャップからコミュニケーションが難しくなり、みんなで追い出しを図っていることを会社は理解しない。「年齢的な問題でギャップがあるので、中間的な年齢の人を入れて欲しい」という要望にも理解がなく、会社が適切な手を打たないため、事態はますます悪化している。
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【問題解決のステップ】
この事例に取り組むために6つのステップで取り組んでみました。
ステップ1:この実態について、何が問題ですか?
それはどうしてですか?
ステップ2:申立者(Aさん)はどんな思いでいるのでしょうか?
ステップ3:チームの他のメンバー(被申立者)の思いはどうでしょうか?
ステップ4:このような事態を引き起こしている要因・背景にはどのようなことが考えられるでしょうか?
ステップ5:Aさんの問題を解決するためにはどのような手を打ちますか?
ステップ6:予防策としてどのような取り組みが必要ですか?
*特にステップ2~4は、問題を解決し、さらに再発防止策を検討するための大切なプロセスとなります。
<展開例>
ステップ1:この実態につて、何が問題ですか?
それはどうしてですか?
■Aさんは設計から営業への業種転換を会社から打診されたが、納得いかないでいる。 =>会社は業種転換の申出に際して、Aさんが納得できるよう、その理由を整理し具体的に明示していない。 =>Aさん自身はまだ設計の仕事をやっていける自信があり、これからもがんばって設計の仕事をしていきたいと考えている。 =>Aさんは今自分が抱えているリーダーとしての役割や設計者としての技術的な面での問題を正しく認識できていない。
■業種転換の理由として「顧客から頻繁にAさんの仕事にクレームが来ている」としている。 =>顧客からのクレームについてその内容が具体的にされていない。 =>Aさんはチームの主任としてチームのリーダー的存在でありながら、顧客からのクレームについて把握していない。 =>会社は、顧客からのクレームについてリーダー的存在であるAさんに伝え、責任を持ってその改善を図るよう指示していないと考えられる。 =>会社はAさんがチームのリーダーであることをしっかり位置づけていないことがうかがわれる。
■Aさんは、顧客からのクレームについて自分にも責任があることをまったく自覚していない。 =>Aさんはチームのリーダーとしての責任感にかけている。 =>会社は設計の仕事を請け負っているが、責任者も明らかにせず、無責任な仕事振りである。 =>Aさんの立場が「年齢的にもリーダー的な立場にあった」とされていることから、Aさんのチーム内での立場が明確でないことがうかがわれる。
■チームの他メンバーは全員20代で、Aさんは年齢的にも、リーダー的立場にあった。 =>Aさん本人も、他チーム員全員も、Aさんが年齢的に上なので当然リーダーとしての役割を果たすものと受け止めていると考えられる。 =>当該電子設計の仕事を受託し業務に取り掛かるに際して、チームにおける責任者等が明確にされておらず、チーム員全員に徹底されていないため、お互いが責任の転嫁をしている状況が伺われる。 =>この問題は仕事をスタートしたときから予測されるべき事態といえる。
■他のメンバーからAさんへの苦情が出されている。 =>仕事上の問題についてチームのメンバー間で議論する場がないように感じる。 =>Aさんは、リーダーとしてチームをまとめ、成果を挙げる役割について責任を感じていない。 =>他メンバーはAさんの年齢がかなり上であることで、事実上のリーダーとして受け入れていることがうかがわれるが、その期待にAさんがこたえてくれない不満を多くのメンバーが持っていることが予測される。 =>会社は、Aさんへの不満があることを把握していながら、Aさんへのフィードバックと業務改善への指示を怠ってる。
■コミュニケーションがうまくいっていないことを世代間ギャップとして安易にかたずけ、改善しようとする意欲はまったくみられない。 =>他メンバーの意見を聴く場がないため、仕事上の問題解決の支援も当然されておらず、その不満が常に蓄積してきたことが想像できる。
■チームの他のメンバーから「Aさんとは一緒にやっていけない」との意見がある。 =>メンバーがAさんとは一緒にやっていけないと言っている理由が明確にされていない。 =>日頃のコミュニケーションが図られていないことが想像できる。 =>会社は他メンバーがどのような理由で一緒に働けないのか状況を確認していない。 =>チームメンバーはAさんへの信頼を持つことが出来ない状況にある。 =>特にAさんの技術的側面への不安が強いことがうかがわれる。
■仲間に苦情の真意を問いただしたところ、職場の仲間からAさんへのいじめが始まった。 ・仕事上での最低限の口しかきかず、連絡事項もメモで渡したり、これまでとは違った対応になってきた。 ・仲間からAさんの技術への批判めいた言葉が頻繁に出されるようになってきた。 ・仕事の遅れについて、Aさんの責任であるからAさんが謝罪すべきだと言われた。 =>仲間の申出を自分への助言として受け止めることができていない。 =>部下の行動の原因についてAさん自身にもあるのではないかという視点がない。 =>部下の思いを知ろうとする姿勢ではなく、苦情の真意を問いただすなど高圧的な態度で部下に臨んでいることが伺われる。 =>技術的批判について、その根拠を明らかにし、自分自身を冷静に振り返ることをしていない。
■会社からAさんに対してスキルアップの要求が次々に出されるようになった。 =>Aさんは、会社から出されるスキルアップ要請を会社からの要請(業種転換)を受け入れないことに対する嫌がらせだと考えている。 =>会社は、顧客からの苦情や他メンバーからの要請を受けてAさんの技術的問題を把握していると思われる。 =>会社は、Aさんにスキルアップの要請はしてくるが、Aさんにその必要性を理解させる取組みが十分でない。
■Aさんは、チームをまとめていく自信がなくなり、リーダーから外して欲しい旨会社に申し出たが、それに対して会社は大幅な給料ダウンを条件としてきた。 =>Aさんは主任手当の部分の給料ダウンは納得しているが、会社は、給料ダウンの提示において『給料の中にもリーダーとしての役割を見込んだ部分が多く入っている』との説明には納得できないでいる。
=>会社も他メンバーもAさんが資格も上で年齢も高いことからチームのリーダーであると考えている。 =>Aさんは主任としての役割をしっかり自覚していない。 =>会社はAさんに対して今回の受託業務についてチームリーダーとして位置づけ、その責任を明確に伝えるとともに、チーム員に徹底することを怠っていると思われる。
■Aさんは、問題は年齢によるギャップの問題だと考え、中間の30代の人をチームに入れるよう依頼したが、会社は対応する意思はない。 =>Aさんは、チームのリーダーとしての自覚がなく、目標達成に向けたリーダーとしての役割を果たしていない。 =>Aさんの気持ちの中に、「40歳限界説」の意識があるが、自分の問題として振り返ることなく、問題の原因を世代間ギャップという形で片付けてしまっている。 =>会社はAさんの行動の何が問題なのかを明確に示しAさんに理解させることをしていない。
■Aさんは、年齢によるギャップによりコミュニケーションが難しくなり、職場の仲間から追い出される危険を感じている。 =>仲間の行動が何によって引き起こされているかを探るのではなく、単に年齢ギャップによりコミュニケーションが難しいことが原因だと決め付け、被害者意識のみが強くなっている。 =>コミュニケーションが難しいとして、仲間の思いを知ろうと努力していない。 =>コミュニケーションを取りながら仕事を進める風土が醸成されていない。
■Aさんの申出に対して、会社は適切な対応を取ってくれないと不満に思っている。 =>会社も現象対応的な措置しかしていないため、Aさんが問題への正しい理解を深めるに至っていない。 =>Aさんは問題を引き起こしている原因を把握するにいたっていない。 =>Aさんは会社が希望する対応を取ってくれない理由をしっかり確認する努力をしていない。
■ますます事態は悪化している。 =>問題が発生したときに解決するための会社としての仕組み・基本姿勢があいまいである。
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スッテプ2:申出者(Aさん)はどんな思いでいるのでしょうか?
●会社から突然営業への業種転換を申出られたが、自分ではまだ設計の仕事ができると考えており、納得できないでいる。 ●顧客からのクレームがあるからという会社が示した業種転換の理由について、設計の仕事はチームとして受託しているので私ひとりの責任ではないと考えている。 ●自分は主任としての処遇は受けているが、チームのリーダー的役割を果たすべきだとは考えていない。 ●最近、他のメンバーが全員20代で、チームメンバーとのコミュニケーションが取りづらい状況にあるが、それは単に年齢によるギャップが原因であり、仲立ちとなる30代のメンバーがチームにいれば問題ないと考えている。 ●メンバーの中で唯一の40代であり、先輩社員であるのでチームのリーダー的存在を果たさなければならないとは考えている。 ●他のメンバーみんなが私を追い出そうとしているのに、会社はそのことを理解せず、なんら手を打とうしない。 ●わたしの思いを理解してほしい。 ●会社として問題の解決にあたって欲しい。
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スッテプ3:チームの他メンバーの思いはどうでしょうか?
他メンバーの思い ●Aさんを先輩であるためにチームのリーダーとしてみてきたが、Aさんは私たちの意見を聴こうとしてくれない。 ●Aさんはチームの目標達に対してリーダーとしての責任を感じていない。 ●Aさんは技術的に問題があることを自覚していない。 ●Aさんは大先輩なので、疑問があっても言い出しにくい。 ●Aさんのために私たちの仕事がスムーズに進まない不満を抱えている。
会社側の思い ●チームの仕事(or Aさんの仕事)への顧客からの苦情に困っている。 ●Aさんの年齢も高くなり、設計の仕事はもう無理ではないかと考えている。 ●Aさんには最近の仕事(技術)に対応できる能力を修得することは難しい状況に来ていると感じている。 ●チームの他メンバーから一緒に働きたくないとの意見も多く、設計の仕事は限界だと考えている。 ●会社からの業種転換の提案に耳を貸さないAさんに対して、技術的な期待を通して本人の自覚を求めようとしている。 ●リーダーとして期待しているのに、役割を果たせないのなら処遇の面でも必要な措置をしなければならないことを示し、Aさんの自覚を期待している。 ●リーダーとして期待しているが、本人がその役割を果たせず、一担当者としての役割しか果たせないのであれば、技術的に見ても業種転換が必要であると判断している。
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スッテプ4:このような事態を引き起こしている要因・背景にはどのようなことが考えられるでしょうか?
●チームとして業務を遂行するにあたって、その責任者を明確にし、具体的な権限を与えていないことが考えられる。 ●チームのリーダーとしてAさんがふさわしい力量を備えていない。 ●Aさんはリーダーとしての業務成果への責任意識を持っていない。 ●顧客からのクレームがチームにフィードバックされ、迅速に対応するシステムが確立されていない。 ●チームの中で問題が発生したら全員で話し合い、問題の解決にあたる風土が醸成されていない。 ●チーム内でのコミュニケーションが取りにくい職場環境がある。 ●成果にあたって個人主義の風土があり、相互支援の気風が感じられない。 ●Aさんと若手メンバーの対立構造だけではなく、若手間でも責任の押し付け合いが予想される。 ●お互いが問題を提起するのではなく、相手を非難する姿勢が感じられ、チームとしての成長が期待できない。
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ステップ5:Aさんの問題を解決するためにはどのような手を打ちますか?
■人事担当者(あるいは相談窓口担当者)が問題の解決を支援する。 => このチームで起っている事実を確認し問題を明確にする。
(グループ機能の確認とチーム再構成) ・チームリーダーとしての位置づけを明確にし、公表する。 ・チームリーダーおよびメンバーの役割と権限を明確にする。 ・チームにおけるパートナーシップを再確認する。 ・チームのリーダーとしての役割を果たす上で求められる能力・適性について明確にする。 ・チーム員相互の情報交換の場を構築する。
(適性の確認とキャリア形成) ・Aさんの現在の能力・適性を確認し、今後の育成計画を作成する。 ・Aさんの今後のキャリアアップについて話し合い、具体的な計画を立てる。 ・Aさんの業種転換の是非について話し合い、方向性を確認する。
(顧客からのクレーム対応体制の確立) ・顧客からのクレームについて、内容とその原因について明らかにする。 ・顧客からのクレームに対する責任体制と対応手順について再確認する。 ・顧客からのクレーム対応の問題点を明確にし、再発防止に向けた検討会を開催する。 ・クレーム対応手順をメンバー全員に再徹底する。
(若手メンバーの思いの確認と職場改善) ・メンバーとの個別面談を実施し、各メンバーがチームの一員として働くに当たって、抱えている問題について話を聴く。 ・Aさんとの関わりで、問題と考えていることを確認する。 ・仕事への影響について具体的に確認する。 ・働きやすい環境として期待することを確認する。 ・環境改善策を検討・実施する。
(納期遅れの事例への対処) ・納期遅れの事例について具体的な事実を確認する。 ・遅れの原因を確認する。 ・再発防止に向けた体制づくりをおこなう。 ・納期遅延の事実に対しては、まずは、チームを代表するリーダーがしっかり顧客に謝罪し再発の防止を約束する。 ・再発防止のために、全員で当該事例について話し合い、再発させないための体勢を再構築する。 ・チームとしての成果は全員の責任であり、全員の努力によって実現するものであることを確認する。
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スッテプ6:予防策としてどのような取組みが必要ですか?
■効果的なチームづくり
1.受託業務内容の確認 ・チームの使命(ビジョン)の確認 ・達成すべきゴール(目標・成果物)の明確化 ・達成レベル、納期、必要メンバー数の確認 ・危険予測と対策
2.チームリーダーの選任 ・リーダーに必要な適性・能力の確認と人選 ・リーダーとしての能力育成 (設計技術は一定の教育とキャリアが伴うことにより一挙に先輩と同レベルに達することができる)
3.チームメンバーの選定 ・もっとも効果的・効率的なメンバー選定を心がける ・重要な利害関係者を参画させる
4.チームメンバーの役割・責任の明確化 ・自主性 ・作業分担と業務への自己責任 ・全体成果への連帯意識の確認
5.仕事の進め方(プロセス) ●ゴールに到達するためのプロセス設計 ・いつどんな順番で、どんな活動を行なうか(活動のロードマップを描く) ・定期的な進捗状況確認の場を設定(一体感・相互協力) ◆近況報告 ◆解決したい課題 ◆メンバーへの質問 ◆情報の提供 ・情報の共有により高い品質の創造を心がける ●ルールの設定(行動の拠り所となる規範) ・メンバーは常に対等な立場で意見交換する(安心して話し合える場の提供) ・疑問があれば必ず確認する(疑問を持ったまま仕事に取り組まない) ・進捗状況は誰にでも見える掲示板に張り出し、常に全員が確認しておく ・相互支援をむねとし全体最適をめざす
6.クレーム対応 ●問題に気付いたらリーダーに迅速に報告 ・何が ・どうして ●当事者が集まって問題解決に向けた話し合いをする ・問題の明確化(事実の確認)とその影響 ・問題の本質把握 ・問題解決の具体策の策定 ・対策の評価基準策定 ・役割および責任の決定 ●解決策の実行 ・優先順位の決定 ・効果の確認 ・顧客への影響(必要があれば顧客への報告) ●チーム機能サポートシステム ・クレーム対処をサポートする本社組織の活用 |
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