《 「セクシュアル・ハラスメント」に対する組織の防止義務 》

 (管理・監督者の責任)

 

セクシュアル・ハラスメントを防止するための方策については、男女雇用機会均等法及び厚労省が出した「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置の指針」に基づき組織が取り組むべき措置について定めています。

また、各省庁も人事院規則10-10「セクシュアル・ハラスメントの防止等」とその運用通知に基づき、「セクシュアル・ハラスメントの防止等に関する訓令」を定め、その防止に努めています。

  

1.組織の責任

  

職場におけるセクシュアル・ハラスメントに関する直接的な責任は、もちろん加害者にあります。

しかし、当該組織が適切に対処すれば防止できることは多く、組織としての責任は免れないのです。組織で働くすべての人の権利と人権を守ること、セクシュアル・ハラスメントが生じないような環境を確保することは、いずれも労働契約を結ぶうえでの組織の義務(職場環境配慮義務)なのです。

ハラスメントによる人権侵害を放置することは、組織の管理運営者の義務の放棄であり、その責任を負うことはもちろん社会(国民)からの信頼が問われることになります。

このような事態にならないよう、事態を早期に把握し、それに適切に対処することが組織に求められているのです。

そのためには、セクシュアル・ハラスメントをなくすための啓発・研修活動や相談体制及び事件対応のための体制を策定し、それらを有効に実行することが必要なのです。

  

2.職場のハラスメントを防止するために

  

職場におけるセクシュアル・ハラスメントによる人権侵害、事業活動の阻害、組織イメージの低下を防ぐためには、セクシュアル・ハラスメントを未然に防止することが大切かつ有効です。

そのために必要なことは、正しい理解・許さない姿勢・確固たる措置・人権の擁護の4つです。

 

 

 

①職場におけるセクシュアル・ハラスメントを正しく理解すること

 

職場運営の責任者がセクシュアル・ハラスメントの問題を正しく理解することが、防止の第一歩です。そのうえで、職場のセクシュアル・ハラスメントが決して特殊なことではなく、誰にでも起こりうる深刻な人権侵害であること、単に個人間の問題ではなく組織の問題であることをすべての働く人たちに認識してもらい、また自分自身がセクシュアル・ハラスメントの加害者にならないためにどうすべきか、被害にあったら、被害を見聞きしたらどうするかなどについて知っておいてもらうことが必要です。

そのために、研修を開催し、防止のためのパンフレット・相談窓口周知カードを配布して朝礼での啓発や職場での勉強会で活用するなど常日頃からのセクハラ防止意識の積極的な啓発が必要なのです。

  

②職場のハラスメントを決して許さない姿勢を示しましょう。

職場のハラスメント防止のための規則を制定することなどにより、セクシュアル・ハラスメントは人権侵害であることを周知させ、どのような人権侵害も許さない姿勢を強くアピールするとともに、常に組織としての対応・対策の自己点検を行うことが大切です。

また、セクシュアル・ハラスメント相談窓口を設置しそれを周知させること、相談窓口において親身になって相談を行うことは、職場のセクシュアル・ハラスメントを許さない姿勢を具体的に示すことになり、ハラスメントの防止につながります。

相談等があった場合、セクシュアル・ハラスメントである場合はもちろん、セクシュアル・ハラスメントに至っていないと思われるケースであっても、セクシュアル・ハラスメントへの発展を未然に防止することを目的として適切な対応を取ることが肝要です。

 

 

 

③確固たる措置は重要です。

不幸にして職場でセクシュアル・ハラスメントが起こった場合には、人権にかかわる法律や組織が定めるセクシュアル・ハラスメント防止のための規則に従って被害者を保護する、加害者に行為の中止を勧告するなどの、迅速で的確な対処が必要です。

また、被害の発生を繰り返さないために、悪質な場合には加害者に対する処分を含めた措置を取ることを考えておかなければなりません。

  

④人権擁護の姿勢を示しましょう

組織で弱い立場にある人たち、被害を受けやすい立場にある人たちの人権擁護を主眼に置いた組織運営を行うことが重要です。

権限を持っている上位の人の人権を守るためと称して、セクシュアル・ハラスメントを放置したり、是認したりしてはなりません

  

3.もし職場でセクシュアル・ハラスメントが起こったら

 

もし職場でセクシュアル・ハラスメントが起こってしまった場合に必要なことは、被害者の保護・公正な調査・加害者の処分・事実の公表のつです。

  

①被害者の保護が最も大切です。

最も大切なことは被害者を擁護し、その早期救済を図ることです。訴えのあった場合には、被害者と断定されていなくとも、まず保護を考えるべきです。

そのうえで、事実関係を調査することになりますが、相談や調査活動によって被害者の人権が重ねて侵害されることがないように、細心の注意を払う必要があります。

相談を受ける担当者にはセクシュアル・ハラスメントを正しく理解し、被害者の立場に立って親身に相談に当たることのできる人材を配置することが必要です。

しかしながら、善意による親身な相談や調査であっても、担当者の独善に陥ってしまえば、被害者にとっては二次被害に他ならないことになってしまうので、被害者の了解を得ながら進めることが肝要です。

また、専門家による継続的なメンタル面でのケアが必要な場合には、それを時間的・経済的に保証することもまた組織の義務のひとつです。

  

②公正な調査を行うためのルール作りが必要です。

申し立ての事例がセクシュアル・ハラスメントに当たる可能性がある場合、被害者やその周辺の目撃者の証言だけでなく、加害行為を行ったとされる者への聴取を行うとともに弁明の機会を与えることが重要です。

加害者が加害行為を素直に自ら認めることはまれで、巧妙な自己弁護をすることや、ときには権力を利用して部下の周辺の者に虚偽の証言を行わせることもあるので、聴取にあたっては細心の注意が必要となります。

聴取に当たる人は公正な第三者でなければなりません。

 

③確固たる措置は不可欠です。

加害行為があったと判断される場合には、相当の処分を行わなければなりません。処分は甘くても、厳しすぎても、セクシュアル・ハラスメントの防止には役に立ちません。行為相当の処分を行うべきで、そのためには規定を設けておく必要があります。

加害者本人がセクシュアル・ハラスメント行為であると認めない場合の処分は、往々にして法的争いに発展することがありますが、それを恐れて処分を下せないのでは、加害者を保護する結果となってしまいます。規定に基づいてしっかりと処分をすることは、加害者がセクハラに対する正しい理解をするために重要であり、再犯防止にもつながるのです。

そして処分を行ったことを公表し、組織全体でセクハラの再発防止を徹底することが重要です。

セクシュアル・ハラスメントの処分対象には、加害者の協力者も含まれます。また、嫌がらせの意図なく加害行為を行った無自覚的な加害者であっても、反省せずに繰り返す場合にはやはり処分が必要です。処分を受ける者に処分理由を納得させることは、処分事態に関する新たな紛争の発生を防止するためだけでなく、加害者本人が以降の行動を改めるためにも有効です。

確固たる処分を行うことは、どのような理由があっても人権侵害行為は許されないこと、組織としてセクシュアル・ハラスメントを許さないことを、はっきりと表明する重要な行為なのです。

  

④積極的な情報公開で再発の防止を図る。

積極的な情報公開も重要です。制定した規定などを公開することはもちろん、セクシュアル・ハラスメントの発生とそれに対処した経過を、被害者の同意を得たうえで、プライバシーの保護に留意しながら積極的に公表することが大変重要です。

どのようなことが起こって、どういう対処がなされたのかを組織の全員に周知させることによって、類似のセクシュアル・ハラスメントの発生を防止することができるからです。

 

4.セクシュアルハラスメントと防止に向けた積極的な取り組みを

 

組織を通して社会に貢献すること、個人の人格が尊重されている良好な職場環境で勤務し、自己の能力を最大限発揮できることは、組織活動にかかわるすべての人々に保障されなければなりません。

これが侵害されるような状況が職場におけるセクシュアル・ハラスメントであり、このような状態は放置されることは決してあってはならないことです。組織運営にかかわる方々が職場のセクシュアル・ハラスメントの防止に積極的に取り組み、みんなの力で組織活動にかかわる人たち全員の人権が保障される良好な環境を実現し、組織をさらに発展させていくことが期待されているのです。

職場のセクシュアル・ハラスメントを防止するためには、それが起こる背景・要因(セクハラのグレーゾーン)を正しく理解し、対応することが必要です。具体的には、固定的な男女観や性的役割分担意識を解消し、女性を男性の働く上での対等なパートナーとして位置づけることが大切です。職場の中で男性と女性とが対等なパートナーとして働き続けることができるよう具体的な職場環境整備を進めることが求められているのです。

  

○固定的な男女観や性別役割意識の解消をする

「固定的な男女観や性別役割意識が“職場の常識”になっていないか」を検証し、見直すことにより、男性と女性が対等な立場でお互いを尊重し、その能力と経験等に基づき働くことができる職場環境を整備します。

  

○職場の中に個人的(私的)な性的関心を持ちこませない

職場とは、業務を遂行するための公の場であり、個人の性的関心に基づく個人的(私的)な性的言動が、業務遂行に必要であるとは到底考えられません。職場のセクシュアル・ハラスメントはまさに“公私混同”と言えるのです。

職場に関係する一人ひとりが、業務遂行に当たって職業人とし、社会人としての自覚を持つよう常日頃から指導しましょう。

  

○良質なコミュニケーションが交わされる職場づくり

 

◇性に関する認識のギャップの理解とダブルスタンダードの解消

性に関する感受性は男女間で大きなギャップがあることや、個人差も大きいことを一人ひとりが理解し、認識を深めることがセクシュアル・ハラスメントを防止することに役立ちます。

さらに、性に関するダブルスタンダード(例えば「男は仕事、女は家事・育児」など)は、男女を異なる基準で扱うもので不平等・不公正な態度であるという認識を深めることが職場での信頼関係や対等な人間関係を築くことにつながります。

 

◇コミュニケーションの基本を守り自由闊達に意見が交わされる職場環境づくり

私たちは、職場の中で上司や同僚と協力しながら働いており、誰もが快適に働き、生産性を上げるためには、お互いを尊重しあう良好な人間関係が欠かせません。

そこでは「人の嫌がることをしない、言わない」という、人として当然なマナー、ルールを守ることが基本となります、このことがセクシュアル・ハラスメントをなくすうえでも基本なのです。

上司や部下、同僚間でお互いの意見が自由に交わされない職場では、人間関係が希薄でお互いへの配慮が欠けたり、思っていることが自由に言えないため、知らず知らずのうちに他者を傷つける発言をしてしまったり、不快と感じる言動に素直に異を唱えられないことも多くなりがちです。

誰もが自由に自分の意見を述べ、気軽に相談しあえる職場環境づくりがセクシュアル・ハラスメントの防止につながります。

 

◇プライバシーに関する過度な干渉を行わないこと

わが国では、職場においてプライベートな事柄が話題にされがちです。しかし、プライベートな事柄に関する受容範囲には個人差があり、また当人同士の人間関係にも影響を与えます。プライバシーに関する過度な干渉を行わないことがセクシュアル・ハラスメントを防止することになります。

  

○人事管理の見直し

職場のセクシュアル・ハラスメントは、組織の人事管理のあり方や職務上の地位や権限が関わって起こっており、また、職場環境の悪化とともに、被害者の配置転換や給与上の不利益、場合によっては免職や退職と言った不利益を生じさせるなど、重大な労働問題としてとらえることが必要です。

労働相談においても、セクシュアル・ハラスメントの被害者は、精神的ダメージ(不利益)に加え、免職・退職に至るケースが目立つなど、その多くが二重の不利益を被っており、その意味で非常に深刻な労働問題であるといえます。

個々の職場では、組織全体の方針や対応がそこで働く人々の意識や行動を強く拘束します。今後、組織においては、働く上で女性を男性の対等なパートナーとして位置づけ、男女個々人の能力や適性に応じた適正な人事管理がより一層求められます。

職場のセクシュアル・ハラスメントが労働問題であることを十分に認識するとともに、改正雇用機会均等法の趣旨を十分に理解し、職場の管理者監督者を始め職場に関するすべての人たちが法(訓令)に基づく必要な措置や取り組みを着実に進めていくことが防止のポイントです。

 

セクシュアル・ハラスメントの防止義務については

パワー・ハラスメントやモラル・ハラスメントについても

同様の防止義務があるのです