カウンセリングの効果

 

心を洗い流すカタルシス効果  

 

まずカウンセルングは、「リスニング」から始まります。
相手をそのまま、丸ごと受け入れて「話を聴く」ということです。
根掘り葉掘り聞いたり、特定の結論に誘導したりはしません。批判も説教もしないで、そのまま受け止めます。ですから、ありのままを話すことができます。
このありのままを話せるということが、たいへん大きな意味を持っています。なぜなら、私たちは、ありのままを大切に受け止めてもらう体験を日常生活の中でなかなかできないからです。
 

 

例えをあげてみましょう。
もしあなたが妻に「会社を辞めたい」と言ったとします。返ってくる言葉は、たぶん「え、どうして?」とか「何を言っているのよ。この不況のときに再就職口何て見つからないわよ」「私だってがんばっているんだから」「不満のない人なんていないのよ」ではないのでしょうか。
あるいは同僚に「妻とうまくいかない」と言えば返事は、「あんなにいい奥さんなのに。いったい何が不満なんだ?」だったりします。こうした対応が返ってくれば、心の中にあるものを吐き出せず、口ごもってしまうことになりがちです。
 

 

カウンセリングでは、相談者の話を非難も批判もせず、丸ごと受け止めて、耳を傾けます。不安やイライラ、怒りや憎しみといったマイナスの感情も、そのまま受け止めてくれるのです。

 

ですから、ありのままを話すことができるのです。ありのままを話せることによって、心の中にあった緊張や不安が取り除かれ、心身がリラックスします。これがカウンセリングの一つの効果、「カタルシス効果」を呼び起こすのです。 

 

カタルシスとは「浄化」という意味です。これは、心の中によどんでいるものを洗い流してさっぱりさせること、風通しをよくすることだと理解してください。カウンセリングでは、心の内にあるさまざまな思い、不安やイライラ、苦悩や怒りといった感情も吐き出すことができるのです。これまでため込んでおいたストレスを外に出すことによって、カタルシス効果が生じ、やすらぎと癒しが得られるのです。 

 

■共感によって得られるバディ効果 

 

カウンセラーは相談者(専門用語では「クライアント」と呼びます)の気持ちや考えを理解し、分かち合おうとします。たてまえで応じたり、他人と比較・評価したり、逃げ腰になったりせず、相手と向かい合って話を聴きます。
たとえば、「死にたい」「殺してやりたい」と思うクライアントが訴えても、「死にたいと言いたいくらい、つらいんですね」「殺してやりたいと思うくらい憎いんでしょうね」と、その裏にある気持ちを聴き、それを理解しようとします。
こうしてクライアントの気持ちに寄り添います。つまり共感するのです。この
「共感」によって2つ目の効果「バディ効果」が得られます。バディというのは、エイズ患者の集まりや、さまざまなグループ療法から出てきた言葉で、仲間という意味です
人は仲間を得ることで、安心感を手にすることができます。バディ効果とはつまり安心感を得られるということです。
たとえば、悩みを持った子は、親や教師に相談せずに、同じような境遇の者同士で話をする傾向があります。親や教師に相談するより、ずっと楽だからです。
おとなの場合も同じでしょう。たとえば、恋人がいないという悩みを持つ人は、恋人がいる友人には悩みを打ち明けにくいのではないでしょうか。「こんな悩みは、分かってもらえないのではないか」「話しても、バカにされるだけじゃないか」と恐れて、同じように恋人のいない友人に相談したりします。
 

 

喜びは分かちあえることによって2倍になり、悲しみは分かちあえることによって半分になるといわれています。不安や葛藤は、自分だけで背負い込むより、それを2人で分かちあえば、ずっと楽になります。3人で分かち合うことができればもっと楽になります。同じ苦しみや悩みを抱えながら、ともに歩いていく人が得られれば、それは安心ややすらぎにつながっていくのです。また、生きていく力や元気も得られるでしょう。 

 

カウンセラーは、クライアントを丸ごと受け入れ、クライアントと同じ立場に立って受け止めてくれます。ですから、バディ効果が得られ、クヨクヨしたり不安だった心にも安心感が生まれ、少し元気が出てくるのです。 

 

■自分の潜在意識に気づくアウェアネス効果 

 

3つめの効果に、「アウェアネス効果」があります。これは、「気づき」です。精神分析でいえば、洞察ということもできます。

 

気づきには、目が覚めて意識を取り戻すとか、つまづいて初めて、そこに石があったことに気がつくというような外界やものごとへの「気づき」もありますが、カウンセリングでいう「気づき」とは、自分の感じ方や考え方など今まで無意識だった自分の内なる部分にハッと気がつくことです。 


私たちの心は、自分がなんとなく知りたくないこと、あるいは気がつきたくないことを知らず知らずのうちに心の奥底に押し込めてしまう傾向があります。ふたをして潜在化させ、見えないようにするわけです。

 

しかし、悩みを乗り越えるためには、なぜそうなったのか原因を知ることが大事で、潜在化させているものに自分自身が気づくことが必要なのです。自分自身がそれを知り、理解することができないと、本当の意味で自由にはなれません。 


とはいえ、これは簡単にはできません。なぜなら潜在化したものは自分が気がつきたくないことが多いからです。
ところがカウンセラーに自分がありのまま受け入れられることによって、だんだん自分自身にも深く耳を傾けることができるようになります。いままで抑えこみ心の秘めていた感情を安心して、自由に解放、表現できるようになるからです。ですから、今まで隠れていた自分に気づくことができるのです。それはとりもなおさず自分自身からの解放なのです。
 

 

アウェアネス効果を得て、私たちが自分のほんとうの姿に向き合うとき、そしてその姿を自分が受け入れることができたとき、私たちは初めて自分を肯定することができるようになります。そして自分のほんとうの姿に立ち戻れたとき、現実に立ち向かう勇気も湧いてくるのです。 

 

人が潜在的にもっている「成長する力」「自己実現する力」は、さまざまな障害によってその力を発揮できない状態におかれているといわれます。「カウンセリング」は、この潜在能力を十分に発揮できるように援助していくプロセスなのです。
カウンセラーは何よりクライアントの内的世界を大事にします。訴えている苦しさについて、なぜそうなったか、どの程度に苦しいのかなど、外側からアプローチはせずにクライアントの気持ちにできるだけ沿って理解しようとします。
 

 

この無条件での共感的理解が、そしてその共感的理解のプロセスが、カウンセリングです。 

クライアントはカタルシス効果とバディ効果を得て、やがては気づき(アウェアネス効果)によって自分自身の内的世界を正しく理解できるようになり、それを受け入れることができるようになります。そのことによって、本来自分がもっている力を取り戻し、それを発揮できるようになるのです。