「同和問題を解消する団体」や「人権を擁護する団体」などを

 装いながら社会に潜む差別意識を悪用する

 不当な申し出の徹底排除

  

日本の社会には、被差別部落出身を理由としたいわれのない、不当で許すことができない部落差別(同和問題)があり、この問題を私たちみんなで力を合わせてなくしていかなければならないことは、多くの国民が理解し、それぞれの立場でその解消のために取り組んでいるところです。

  

企業は、部落差別からの完全解放を目指すために運動している人たちから、様々な機会を通して、部落差別の不当性と人権を尊重することの大切さを学び、同和問題の解消への取組みを通して、採用を始め企業活動のあらゆる場面で、人権尊重の精神を浸透させていく取組みが、お客さまや地域社会からの信頼と満足を得て、企業が将来に向けて発展する力となるとともに、そこに働く一人ひとりにとっても明るく元気の出る職場づくりにつながっています。

 

しかし、一方、企業活動の中で、「同和問題を解消する団体」や「部落解放をめざす団体」「人権を擁護する団体」などを装い、社会的差別意識を利用した不当な申し出を受けることも後を絶ちません。

 これらの行為は、一般に、「えせ同和行為」といわれ、同和問題を口実として行われる不当な要求、不法な行為であり、同和問題の解決につながらないばかりか、かえって被差別部落の人々に予断と偏見を生む、絶対に許してはならない行為なのです。

 最近の「同和問題を解消する団体」や「部落解放をめざす団体」「人権を擁護する団体」などを装う社会的差別意識を利用した不当な申し出について具体的事例を紹介し、企業としてどのように対応すべきかについて示します。

  

1.「えせ同和行為」とは

  

「えせ同和行為」とは、同和問題を口実として行われる不当な要求、不法な行為などを言います。

 最近見られる「えせ同和行為」には、次のようなケースが見られます。

  

◇書籍を押し売りする行為

 企業にとって、同和問題に取り組むことは社会的責任であることを背景に、その取組が十分でない企業の心理的弱みにつけ込んで、必要のない高額な書籍を売りつけようとするもの

 ◇補償等を強要する行為

 差別意識または差別行為等の事実が認められないにもかかわらず、ちょっとしたミスや不注意を同和関係者に対する差別行為だと一方的に断定し、その行為に対する補償等を強要するもの

◇債務を免れようとする行為

本来支払うべき債務を免れんとするために、同和問題を解消する団体や部落解放団体・人権擁護団体等の名称を出し、支払いの猶予を強要したり、支払いを拒否するもの

 

これらの行為は、同和問題の解決につながらないばかりか、被差別部落の人々に対する予断と偏見を生む行為であり、絶対に許してはならない不当な行為なのです。

万が一、このような強要に負けてこれらの不当な行為を受け入れたとすると、差別を利用する不当な行為を許すことになるとともに、企業自身が被差別部落の人々への予断と偏見を持つことになり、その思いを広めていく、差別の当事者になってしまうのです。

  

企業は、どのような団体名を名乗ろうとも、その内容に基づきしっかり判断し、その内容が不当なものであったり、企業として必要でないものの強要である場合は、毅然たる態度でその申出を断らなければなりません。

 このような不当な行為をする人たちは、同和問題を解消しようとしたり、人権を大切にしようと取り組む人たちでないことは明らかであり、絶対にその肩書きにだまされることなく対応することが、真に人権を尊重する企業としてのとるべき行動なのです。

 [参考](広辞苑より)

 「えせ」(似非)とは、似ているが実は本物ではないこと、まやかし、にせものをいいます。

  

2.具体的事例と企業の対応

  

最近企業に対して行われた「同和問題を解消する団体」や「部落解放をめざす団体」「人権を擁護する団体」などを装った不当な申し出事例を紹介します。

申し出者が名乗る団体名は、さまざまです。中には、他の団体を想起させるような団体名を名乗るケースも少なくありません。

これらの団体がすべて不当な申し出をする団体と決め付けることはできません。当然、共通な目的を遂行するために組織を結成し活動することは誰にでも認められていることだからです。

しかし、「同和問題を解消する団体」や「部落解放をめざす団体」「人権を擁護する団体」名などを冠した名称を使用し、あたかも同和問題を解決するために組織し活動しているかのごとく装い、その名称を悪用して不当な利権を得ようとする行為は社会的に許されるものではなく、企業はそのような行為を絶対に許してはならないのです。

これらの申出が不当であるか否かを判断する基準は、申し出者が名乗った団体名によるのではなく、申出の内容が不当なものであるか否かによるのです。

 

次に、申出の内容について、具体的事例を基に、その対応について考えてみます。

  

□申出の内容と企業の取るべき対応

  

①書籍の売込み

〇「同胞300万の歴史を書いた書籍を買って欲しい」

〇「今回同和の法律が変わった。それで新たに本を作ったので買って欲しい。以前の常務にも買ってもらったことがある」

〇「本社と相談とは何だ。私は常務さんに話しているのだ」とのやり取りがあり、『人権啓発総鑑』(5万円)が郵送されてきた。

〇外線電話でいきなり「工場長はいるか?」と言われ、工場長が出ると、〇〇会の△△だが、『差別と人権』という本を送付するので、代金5万5千円を振り込むように」と言われた。

〇「同和関連の本を送る」と言われ、一方的に電話を切られた。

〇個人として書籍を購入した団体役員に対し、新しい書籍を発刊したから購入して欲しい旨執拗に営業活動を繰り返した。電話の応対を断ると、脅すような話し振りで職員に取り次ぎを強要。ついには、職員が電話を取ることに恐れを抱くようになってしまった。

〇「水平社宣言より75周年を迎え、同和の歴史資料約700ページを作成したので購入していただきたい」

〇「設立75周年を記念して同和関連の本を作成した。1冊5万円でお願いしたい」

〇「85周年記念誌を発行したので買って欲しい」

 

[企業として取るべき対応]

書籍の売込みは、基本的には営業行為であり、購入するか否かは、企業が判断し決定することです。

○電話での同和問題関連図書の営業については、一切断ることが必要です。

・同和問題に関する資料は、行政で作成・配布していたり、書店で購入ができます。

・何万円もする書籍は、絶対に購入してはいけません。

同和問題の理解のためと称し数万円の書籍を販売しようとする行為は、「同和問題を解消する団体」や「部落解放をめざす団体」「人権を擁護する団体」などの名称を用いて販売を強要する不当な行為であると判断できるからです。

・行政が同和対策事業を展開する上で話し合いの相手としている民間運動団体は、直接電話での書籍の販売は一切行なっていません。

〇電話等での販売行為は、訪問販売法の規制を受けます。

・書籍を一方的に送り付けられた場合は、売買契約が成立していないので当然送り返すことができます。

この場合、返送は、1週間以内に行なうことが望ましく、また送料は「着払い」とします。

・電話で購入の意思を伝えたとしても、現物を確認し必要がないと判断した場合は、一方的に解約(クーリングオフ)が可能です。(特定商取引法)

この解約は、書籍を受領した日から8日以内(発信の時)に書面を持って申出ることが必要です。

この場合の送料は、法的には、販売者負担とされていますが、当方の最初の意思により送付してきたのであることを考慮して当方負担で郵送することも考えられます。

○相手方が名乗った「同和問題を解消する団体」や「部落解放をめざす団体」「人権を擁護する団体」等の名称を聞き、断ることを躊躇することがあった場合、その背景に予断や偏見が潜んでいることを知らなければなりません。

・「断ると厄介なことになるぞ」「トラブルになるなら多少の金であるから購入してしまおう」と考えることは、同和問題に対する正しい理解をせず、真剣に同和問題の解決に取り組んでいる人たちに対する誤った認識を持ち、予断と偏見が潜んでいることによるものです。

同和問題を正しく理解しなおし、差別の実態を悪用する不当な行為を徹底排除しなければなりません。

・正しい判断ができず高額な書籍を購入することは、自ら被差別部落の人たちに偏見を生む行為を受け入れたうえに、「高い書籍の購入を不当に強要するとんでもない人たちだ」といった誤った噂を流す当事者にもなりかねません。

脅しに負けて書籍を購入する行為は、差別の実態を悪用し不当な利益を得ようとする不法な行為を見逃すばかりか、自ら差別の当事者になりかねない状況をもたらす絶対に行なってはならない行為なのです。

  

  差別があったとの申出

○「『日本人権○○会』と名乗っているのに、工事の約束を破った。差別している」との申し出

○「マンション建設反対運動の中で、社員が団体を誹謗中傷している。差別事件だ」として反対運動を止めることを要求

 

[企業として取るべき対応]

事実に基づき、企業として対応すべき人権問題であるか否かを確認する。

人権の問題として扱うべき問題であるか否かを判断する。

 ・申し出の内容をよく聞き、事実に基づく対応が必要です。

 ・人権問題であるか否かは、団体名に惑わされることなく判断する。

 ・どのお客さまに対しても同等な対応を取ることが基本です。

 団体名や申出の強さによって異なる対応をすることは、たとえそれが優遇であっても「差別的扱い」となるのです。

 ・人権の問題であるとの主張に納得できない場合は、その旨をはっきり伝え、申し出者に対し、人権問題であるとする理由を尋ねてみることも大切です。

人権の問題であってもなくても、お客さまへの対応は、誠実かつ真摯に行なうことが大切です。

 ・予断や偏見で人を見たり、申出内容を自ら歪めてしまうことのないよう心がけることが必要です。

  

  仕事の依頼

◇同和問題を解消する団体を名乗る人から、行政から請け負った仕事への参加を『弱者救済の立場から』要請された。

 

[企業として取るべき対応]

 業務上の取り引きは、すべてビジネスベースで行なうべきで、通常行なっている方法で対応することが必要です。

被差別者であるからという理由で特別に扱うことは、不当に扱うことと同様に、一般的には差別的扱いと考えられます。

ただし、法律や条例などによってポジティブ・アクションとして社会的ルールをもって特別に定められている場合は差別解消のためになされる必要な措置であり、それに従うのは当然です。

  

  業務遂行上の申出

○料金の支払について、分割で約束したのに一括で集金した。落とし前をつけろと言って、「○○氏」(運動体の会長)の名前を出す。

○工事代金を支払わず、団体の名刺を出す。

○工事のトラブルに伴い団体の理事を名乗って賠償要求をする。

 

[企業として取るべき対応]

◇業務遂行にあたって、「同和問題を解消する団体」や「部落解放をめざす団体」「人権を擁護する団体」等の名称を出しながら不当な要求をする行為につては、毅然たる態度でその要求を拒否します。

業務遂行にあたって、「同和問題を解消する団体」や「部落解放をめざす団体」「人権を擁護する団体」などの団体名を出される場合の多くは、名称を出しただけで企業は「厄介な問題だぞ」と思うはずだ、「多少のお金ですむことなら」ときっと不当な要求でも飲むはずだと決め付け、同和問題の正しい理解をせずにその場しのぎで処理しようと考えている企業を狙って申し出をしてくる場合が多いようです。

同和問題理解するということは、被差別部落に生まれたことをもって不当な扱いをしないこと、誰もが基本的人権について守られ、市民として平等に扱われるたり、就職の機会が公正に与えられるということを正しく理解し、それをみんなで守っていくことなのです。

むしろ、このような差別がある現実を悪用し、自分の利益を得ようとする行為は犯罪であって、絶対に受け入れないことが企業の責任なのです。

他のさまざまな団体の一つとして申出者が所属する団体であり、どこに所属しているかで異なった扱いをすることなく、申し出内容に基づいて公正かつ誠実に対応することが大切なのです。

 

 以上