「グローバル・コンパクト」

 

1999年2月、スイスで行われた世界経済フォーラムでアナン国連事務総長が、企業の経営者たちに対して、人権、労働、環境に配慮した企業活動を行うように呼びかけた。

 さらに、2000年7月には、国連と12のNPO、ダイムラークライスラー、シェル、ナイキなどの50の多国籍企業とが「グローバル・コンパクト」という環境と人権に関する協定を結び、これまで政府の役割とされてきた分野における企業の活躍を、国連が期待し始めた。

 

 企業は長い将来にわたって国際社会に影響を及ぼす存在だという世界の共通認識ができている。

  

「グローバル・コンパクト」は、企業が遵守すべき統一的な人権規範になりうるものであり、人権、労働、環境の3つの分野において社会的責任を果すこと、国連諸機関の活動に協力することを企業に求めながら、一方でそうした企業の取組みを国連としても支援しようとする構想である。

 

それは原則や理念だけではなく、国連との間で結ぶ事実上の契約という意味を持つ。

海外の主要企業は事務総長の提案に賛同し、国連との間で合意書に署名しているほか、労働組合連合体のほか、有力なNGOも、事務総長のイニシアティブに賛同を表明してきている。

  

このほか、国連では、人権委員会の人権促進保護小委員会において、企業のための人権行動規範づくりが進められている。

この「企業のための基本的人権原則」の草案の中で注目されるのは,企業の人権責任が国家の責任を保管する形で「一般的義務」として位置づけられたことである。同様に欧州連合でも、企業のための人権規範を作成する動きが進んでいる。

 

一方、企業による具体的な人権侵害の実態も明らかにされてきている。

ミャンマーの軍事政権との合弁で天然ガス事業を展開するアメリカ企業UNOCALは、NGOのボイコットの標的となっているだけではなく、米国内で訴訟を提起されている。

 シェル、シェブロンといった石油産業は、ナイジェリアにおける人権侵害を申し立てられている

ナイキ、ギャップといったメーカーは、アジア・太平洋地域における低賃金の搾取労働(スウェット・ショップ)の改善を求められ、裁判にまでなっている。

  

これらの動きは、企業が人権分野において社会的責任を果さない場合には、ある種の制裁が加えられるということを意味している。

 

人権尊重、人権保護・促進に関する企業の責任を追及するグローバルの動きは、一つの大きな世界的潮流といえる。

  

20047月5日

 グローバル・コンパクトに10番目の原則が追加

  透明性および腐敗との闘い

  

2004624日に行われたグローバル・コンパクト・リーダーズ・サミットでは、世界中の企業幹部がグローバル・コンパクト(GC)への誓約を再確認し、さらに腐敗や汚職と闘うことに合意しました。サミットでは「強要と賄賂を含むあらゆる形態の腐敗を防止するために取り組むBusinesses should work against all forms of corruption, including extortion and bribery)」という原則を10番目に加えることが決定されました。

 

企業幹部、政府高官、および市民社会指導者400人以上が参加し、これまで国連で開催された中でも最大かつ最高水準の会合となった会議を総括して、コフィー・アナン国連事務総長は、GCに対する「新たな力強い誓約」と、この意欲的取組みの意義、および「今後どうしたいのか」に関するよりよい理解をもって会議が終了したと述べました。

 

アナン事務総長は閉会の挨拶で、「私たちはパートナーとして、相違と緊張状態を行動志向の建設的戦略へと変え、GCが抱える課題に取り組みました。皆さまは、先行きに対する不安と恐怖が高まっている時代でも、企業、労働者、市民社会、政府が反目を乗り越え、共通の土台に立って物事を進められることを実証されたのです」と語りました。

 

24日の早朝、不正との闘いを目指す国際的非政府組織(NGO)であるトランスペアレンシー・インターナショナルのピーター・アイゲン理事長は、つい最近まで世界のビジネス社会が腐敗を必要悪と考えてきたことに言及しました。しかし、汚職の防止、犯罪化、汚職に対抗するための国際協力、ならびに不正に取得した資産の回復に関する徹底的措置を定めたものとして、はじめて全世界的に認められた国連腐敗防止条約が広く批准された後、「今では腐敗と闘う必要性について確かな合意ができている」と述べています。

  

 

<<グローバル・コンパクト>>

 

原則 1:国際的に宣言された人権の保護を支持し尊重する

原則 2:企業自身が確実に人権弾圧に加担しないようにする

原則 3:結社の自由および集団交渉の権利を実質的に承認する

原則 4:あらゆる形態の強制労働を撤廃する

原則 5:児童労働を実質的に廃止する

原則 6:雇用および職業に関する差別を撤廃する

原則 7:環境上の課題に対する予防的な取り組みを支持する

原則 8:環境に対するより大きな責任を負うための取り組みを行う

原則 9:環境に優しい技術の開発および普及を奨励する

原則10:透明性および腐敗との闘い

 

 

 現在(2015年7月時点)では世界約160カ国で1万3000を超える団体(そのうち企業が約8,300)が署名し、

「人権」・「労働」・「環境」・「腐敗防止」の4分野・10原則を軸に活動を展開しています。