《「職場のハラスメント」をなくすための取組》

  

1.なぜ「職場のいじめ」問題に取り組むのか

  

(1)問題の現状

 

「職場のいじめ」の問題は、近年、社会問題として顕在化してきています。

 例えば、都道府県労働局に寄せられている「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は、2002年度には約6600件であったものが、2010年度には約39400件と約6倍に急増しています。

 さらに、労働者を対象に行われた調査では、職場のいじめ・嫌がらせが一部の限られた労働者だけではなく、働く人の誰もがかかわり得る可能性があることが分かっています。

 東証一部上場企業を対象に行われた調査では、43%の企業が「パワー・ハラスメント」あるいはこれに類似した問題が発生したことがあると回答しています。また、82%の企業が、「パワー・ハラスメント」対策は経営上の重要な課題であると回答しています。

 

(2)取り組みの必要性

 

「職場のいじめ」は、労働者の尊厳や人格を侵害する許されない行為(不法行為)であり、とりわけ、職務上の地位や人間関係を乱用して意図的に相手をいじめたり、嫌がらせを行ったりすることは許されるものではありません。

 また、そのような意図はなくても、どの過ぎた叱責や行き過ぎた指導は、相手の人格を傷つけ、意欲や自信を失わせ、さらには「いじめ」を受けた人だけでなく行った人も自分の居場所が失われる結果を招いてしまうかもしれないのです。

 人は他者との関わり合いの中で生きていく存在であり、職場は人生で多くの時間を過ごす場所であるとともに、多様な人間関係を取り結ぶ場でもあるのです。

 そのような場所で、「いじめ」を受けることにより、人格を傷つけられたり、仕事への意欲や自信を喪失したり、さらには居場所を奪われることで他者との関係性を断たれるなどの痛みは計り知れないものであり、生きる希望を失う場合もあるのです。

 私たちは時として他者の痛みについては鈍感でありがちですが、「もし、自分が、自分の家族が、「いじめ」を受けたらどう感じるかを想像することでこの問題の重要性が理解できるのではないでしょうか。

 「いじめ」を受けた人にとっては、人格を傷つけられ、仕事への意欲や自信を失い、こうしたことは心の健康の悪化にもつながり、休職や退職に至る場合すらあるのです。

 周囲の人たちにとっても、「いじめ」を見聞きすることで、被支配感が強まり、仕事への意欲が低下、責任の転嫁、ミスの隠ぺいなど、職場全体の生産性にも悪影響を及ぼしかねません。

 また、「いじめ」を行った人も社内での信用を失い、ときには懲戒処分や訴訟のリスクを抱えるなど不利益を受けることになります。

 企業にとっても、「職場のいじめ」は従業員間の問題にとどまらず、組織の生産性に悪影響が及ぶだけではなく、当該者が休職や退職に追い込まれたり、職場環境の悪化に伴い貴重な人材の流失にまで及ぶ危険性があるのです。

 もちろん、「職場のいじめ」を放置しておくと、裁判で企業の使用者責任を問われることもあり、企業イメージのダウンにもつながりかねないのです。

 

(3)「職場のいじめ」問題に取り組む意義

 

 「職場のいじめ」問題に取り組む意義は、こうした損失の回避だけに終わるものではありません。

 一人ひとりの尊厳や人格が尊重される職場づくりは、職場の活力につながり、仕事に対する意欲や職場全体の生産性の向上にも貢献することになるのです。

 この問題への取り組みを、職場の禁止事項を増やし、活力をそぐものととらえるのではなく、職場の活力につながるものととらえて、積極的に進めることが求められるのです。

 

(4)問題の背景

 

 「職場のいじめ」が社会問題として顕在化した背景には、企業間競争の激化による社員への圧力の高まり、職場内のコミュニケーションの希薄化や問題解決能力の低下、上司のマネジメント力の低下、上司の価値観と部下の価値観の相違の拡大など多様な要因が指摘されています。

 こうした背景要因への対応は、それぞれの職場でみんなが参画する中で自主的に話し合い対策を検討することが望まれます。

 すでに顕在化している問題については、その現状にかんがみ、早急に解決・現状回復・再発防止に取り組むことが必要となります。

 

2.どのような行為を職場からなくすべきか

  

(1)共通認識の必要性

 

 「職場のいじめ」とは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係など職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的、身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為を言います。

 「職場にいじめは」多くの場合上司から部下に対してなされる場合が多いが、先輩・後輩観や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものもあります。

 「職場内の優位性」は「職務上の優位性」に限らず、人間関係や専門知識など様々な優位性が含まれます。

 個人的な受け取り方によっては、業務上必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、業務上の適正な範囲で行われている場合には、「職場のいじめ」には当たりません。

  

(2)「職場のいじめ」の行為類型

 

 「職場のいじめ」には次のようなものが含まれます。

 ①暴行・傷害(身体的な攻撃)

 ②脅迫・名誉棄損・侮辱・暴言(精神的な攻撃)

 ③隔離・仲間はずし・無視(人間関係からに切り離し)

 ④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求・情報隠し)

 ⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)

 ⑥私的なことに過度に立ち入ること(プライバシーの侵害)

 

3.どのようにしたら「職場のいじめ」をなくすことができるか

 

(1)まず、何から始めるか

 

 まず企業として、「職場のいじめ」を許さない旨の方針を明確に打ち出し、周知・徹底します

 方針の明確化は、相手の人格を認め、尊重し合いながら仕事を進める意識の涵養につながります

 職場の一人ひとりがこうした意識を持つことが、対策を真に実効あるものにします

 組織の方針が明確になれば、いじめを受けた従業員やその周囲の従業員も、問題の指摘がしやすくなり、問題が深刻化する前に適切な対処が可能となります

「職場のいじめ」をなくす取り組みは、企業の存続・発展、職場の士気や生産性、企業イメージ、コンプライアンスの視点からも重要です。

 留意すべきことは、対策が上司の適正な指導を妨げるものにならないようにすることです

 上司は自らの職位・職能に応じて権限を発揮し、上司としての役割を遂行することが求められます

  

(2)「職場のいじめ」を予防・解決するために

 

 ①トップのメッセージ(「職場のいじめ」は許さない)

 ②ルールを決める(就業規則に関係規定を設ける、予防・解決に関するガイドラインの作成)

 ③実態を把握する(従業員アンケートを実施)

 ④教育する((「職場のいじめ」防止研修の実施)

 ⑤周知する(組織の方針や取り組みについて周知・徹底する)

 ⑥相談や解決の場を設ける(相談窓口の開設、解決手順等のルール化)

 ⑦再発を防止する(職場環境の改善、加害者への再発防止研修の実施)

  

4.おわりに

 

 「職場のいじめ」をなくすためには、職場に一人ひとりが、この問題について自覚し、考え、対処することが重要です。

 そのような行動のもととなるのは、職場の仲間の人格(存在価値)を互いに尊重する意識なのです。

 すべての社員は家に帰れば自慢の息子であり、娘であり、尊敬されるべき父親であり母親なのです。

 そんな人たちを職場のいじめなんかでうつに至らしめたり苦しめたりしてよいわけがありません。

 もし自分の家族がそのような目にあったらあなたは許せますか。

 わが社は「従業員モラルに関する基本方針」を明らかにし、そのような行為は許さないと明言しています。