ハラスメント相談受付後の取組
1. 対応方針の決定
相談者からの聞き取りが終わったら、まず事実調査の是非について判断し、調査が必要な場合は、今後の事実調査等の対応方針を決めます。ここでいう方針の決定とは、事実調査をどのように進めるかのシナリオ作り(誰が、どのように、いつまでに)をすることです。
○方針決定に当たっては、必要があれば、当該部門と協議・調整を行います。
・事実調査の要否の判断
・物証の確保
・人証の対象および事情聴取の順番
・重要度・緊急度・影響度の判定とその対応策
・専門家への対応方針への助言要請(法令、医療、人事等)
・情報開示の範囲(情報開示の範囲はその都度相談者の了解を得ることが重要)
・調査担当者の選定(対応は複数で行い、問題によってはチームで対応)
○問題解決への道筋の主な種類
①聞き取った内容からハラスメントの問題はなく、対応不要と判断
②聞き取った内容を基に相談者等にアドバイスをすることで問題解決
③聞き取った内容を基に調査を行った結果、是正不要、もしくは事実なしと判断
④聞き取った内容を基に調査後、ハラスメントの事実があれば是正措置
⑤聞き取った内容を基に調査後、被申立者や上司に注意・指導を行い問題解決
⑥聞き取った内容を基に調査後、被申立者に対して懲戒処分(謹慎、減給、出勤停止、懲戒解雇など)を行ったり、当事者を引き離したり懲戒的な意味を込めた人事異動を行ったりすることで解決
2. 調査の実施
事実調査は、通報・相談者の通報・相談内容に基づき決定された方針に従い、迅速に行うことが求められます。事実調査に当たって常に配慮しなければならないことは、調査権限の明確化と情報の一括管理、そして秘密の保持と説明責任です。
事情聴取や物証確保に当たっては、当該対象者に秘密の保持を厳守するよう約束させるとともに、調査に関するすべての対応について正確な記録を残しておくことが必要です。
2-A 事実確認のための基本的対応
事実確認は、相談者からの相談をきっかけとして、発生した事象がハラスメントに当たるか否かを判断するために行うものです。そのために当事者からの事情聴取、必要があれば関係者からの事情聴取を行い、公正かつ客観的に判断するための情報を収集します。重要なことは、様々な状況を想定して、それに柔軟に対応できるよう事前準備をしておくことです。
特に大切なのは、事実が確認できる前から被申立者を“犯人扱い”しないということです。相談者の相談内容と同様、被申立者の言い分もしっかり聴き、双方の申出に齟齬がある場合は、再度確認するなど必要な対応をとり公正な判断を行います。この場合これまでの仕事ぶりや社内の位置づけ等よって先入観を持つことのないよう留意します。
■社内調査の具体的進め方 ~証拠化へのプロセス~
○被申立者に対する事情聴取で念頭に置くべきポイント
・話しやすい環境を作る ・犯人扱いしない ・しっかり弁明させる
・企業の円滑な運営上必要かつ合理的なものであること
・事情聴取は長時間に及ぶと、双方にとって心理的負担が多く好ましくない
○調査方法
・調査目的を示し本人の協力を得る(必要があれば就業規則等を示し協力を要請する)
・相談の事実を伏せて調査する場合は、別の目的を作る必要がある
・自主的に話をしてもらうための工夫をする ex…
日常の業務貢献について感謝の意を表す、日常の業務遂行において何か問題がないか確認する、関わりない内容が出てきてもしっかり聴く、公平で客観的な第三者の立場に立って聴く、など。
・聴取は複数人で行う。1人が聴取を行い、他の者が記録と聴取状況全般を確認しながら進める。
・調査対象者が複数いる場合は、個別に話を聞く。
・関係の薄い人からまず話を聞く。順次核心の人へと話を聞くほうがよい場合が多い。
・誰を調査対象者とするかは、慎重に検討が必要。必要以上に範囲を広げることは好ましくない。
・調査の事実および協力について口外しないことを約束させる。
・相談者探しの禁止や相談者への報復の禁止について説明し、理解、了承を得る。
○証言の確認
・供述の内容が客観的証拠(物証、第三者の供述)と合致し信用できるかどうか。
・供述をうのみにせず、不明な点は的確な質問を投げかけ、詳細な事実を明らかにする。
・通報・相談者と被通報者の内容が食い違う場合は、再度通報・相談者にヒアリングを行い、内容について再確認する。
・得られた人証および物証を整理し、事実関係を十分把握したうえで、事情聴取する。
○社外に対する調査
・必要であれば社外に対する調査を行う
・秘密保持に関し、調査対象者と約束を交わし、その記録を取っておく
○時間が経過してしまった場合の証拠収集
・証拠を時系列に並べ替え、今起こっている問題への関連性、影響等を明確にする
○収集した情報の分析・評価、検証作業
・事実が100%の真実であるかどうかの見極めを行う
・処分を行うための証拠として十分であることを確認する
○他に同様の事実がないかの調査
・ハラスメントの問題があると確認されたときは、同様の問題が他に起こっていないかを確認する
2-B 人間関係の事実確認のための基本的対応
職場における人間関係の問題は、多くの場合日常的な職場における人間関係の積み重ねが背景にあって引き起こされるようです。相談への対応を機に、起こった事実だけではなく、日常の職場における人間関係にも関心を持ち、だれもが働きやすい生産性の高い職場を目指すことも必要です。
事実確認のためには、以下のような内容の確認が必要です。
○ 相談者と被通報者の職務上の接点。
・ 上司と部下のように直接の指示・命令関係にあるか。
・ 同じ職場の同僚か。
・ 直接の業務関係はないのか。
・ 職務上とは別にどのような感情を持っているか。(恋愛感情、好意、無関心、嫌悪感など)
○ 相談者から通報・相談された行為について。
○ 問題とされる行為について、相談者が不快であると感じていることを認識しているか。
○ その行為について合意していると考えていたのかどうか。
○ その行為がハラスメントであるという認識があったかどうか。
2-C 匿名の場合
匿名での相談については、事実調査と被申立者に対しての十分な配慮が求められます。
○行動観察
・当該行為が起こっている職場の管理責任者に対し、被申立者、関係者の行動観察を指示。
○周辺情報の収集
・当該行為に関わる物証の収集。
・当該行為に関わる関係者からの事情聴取を行う。事情聴取およびその内容につき口外禁止を守るよう指示。
○被申立者への事情聴取
・事実が確認されたときは被申立者への事情聴取を行う。
・ただし、匿名であるため、後日の相談者の了解は得られないので、最初の通報・相談時に、事実が確認された場合には被申立者への事情聴取を行う旨の了解をあらかじめ得ておく必要がある。
○匿名の相談者との連絡ルートの設定 この内容でOKかどうか確認
・相談者からの再連絡を依頼。社内情報ネット上などで、匿名相談者への連絡ルートを開設。
・受付日時と調査結果(事実の確認の有無のみ)を掲載し、窓口への再度の連絡を依頼。
・再度の連絡受付時には、通報・相談内容の確認をするなどして、本人であることを確認。
3. 調査結果の分析
問題解決に当たって大切なのが調査結果の分析です。この分析がしっかりなされることにより、早期に問題解決が図られるのです。
3-A 分析
○現状の把握
・何が起こったかを特定
・その事実が問題であるか否かを判断
・違反するルールの特定(法令、社内規則、行動基準、業界ガイドライン等)
・推測を事実と誤認することのないよう留意
○原因の把握
・問題には必ず原因がある。さらに原因をもたらすさらなる原因もある。「なぜ?」「なぜ?」を繰り返し、真の原因を突き止める。
○問題の分析
・原因が明確にならない問題や、複雑に原因が絡みあった問題、簡単に解決できない原因のある問題については、問題分析を行って、関係する様々な要素を探り当て、問題を整理し体系化する
・過去の事例を参考にする
・同様の事例が他部署でも起こっていないかを調査する
○不正な目的での相談ではないかの検証
・稀ではあるが、悪意を持って被申立者を貶めようとするものがある。
○想定したシナリオと合っているかの確認
・調査方針(シナリオ)はあくまで相談者の相談内容に基づくものであるため、調査結果を基に検証することが必要。
3-B 再発防止策の検討
再発防止策を策定するためには、事象とその原因を明らかにし、現状の回復を図るとともに、発生要因をなくすためのチェック機能を設け、環境の改善を行います。
調査結果の分析の途中で、よりよいビジネスモデルが発想されることも少なくなく、正規の手続きを踏んで即実施することも問題提起を有効に活かすための大切な取り組みです。
4. 相談者への報告
相談者への報告は、迅速かつ適切な時期に行うことが大切です。
4-A 相談者への報告内容
相談者への報告内容は、次のものがあります。
○確認した事実、または確認できなかった事実
・起こった事実について、相談してくれたことに会社としての謝意を表す。
○会社が講じた措置
・被害拡大の防止、プライバシーの保護、相談者への不当な取り扱いの禁止など
○発生原因と再発防止策
○不法行為者の処分
○その後の対応の依頼
・調査結果の報告と同時に、その後の対応について相談者に依頼。
・当該事象に関連して発生する状況変化についての記録。
・問題を感じた状況変化について窓口への連絡。
4-B 相談者が調査結果に異議を申し出た場合
相談者が調査結果に異議を申し出た場合、調査すべき新たな情報が提供された場合には再調査します。通報・相談者の相談内容と調査結果に齟齬がある場合は、再度事情聴取し、会社としての判断を行います。状況によって事情聴取の範囲を拡大することも必要です。
・会社がこれ以上の調査は必要ないと判断した場合はその旨を伝える。
・相談者が希望すれば公的機関を紹介する。このような場合に対応できるよう、公正に対応できる紹介先窓口の情報をあらかじめ持っておくことが大切。
5. 是正措置・再発防止
相談窓口は、事実調査が終了し次第、結果を分析し、その原因、状況、影響範囲を明確にします。そのうえで再発防止策を策定し、より良い企業活動が実現できる職場環境の整備のための具体的実施策を検討します。
5-A 是正措置・再発防止のための具体策
例えば、以下のような例があります。
○仕事の進め方(マネジメント力)に関わるもの
・再発防止に向けた研修会の開催。
・発生事例の情報開示と行動基準の徹底。
・組織におけるマネジメントノウハウの教育。新しい時代の職場管理能力の向上。
・問題を自由に話し合える場の設定。
・コンプライアンスチェックの実践
・業務改善、チェック機能の設定。
・人事ローテーションの見直し。
・監査項目の見直し。
・業務改善相談窓口の設置。
・メンタルケアの徹底。医療部門との連携強化。
○職場の人間関係によるもの
・業務改善を目的とした勉強会の開催。
・日常の「声かけ」と業務遂行への関心。職場での存在価値の向上。
・上司、部下双方向からの“報・連・相”の活用。
・業務遂行への公正な評価。
・アンケート、面接などによる職場環境のリサーチ。
・職場全体の力量を上げる。“できる人”に負荷を集中させないための人材育成。
○職場の文化/風土によるもの
・職場で気になることを話し合って改善していくシステムの構築。
・達成すべき目標の明示と、その達成に向けた行動や判断を行ううえでの価値観や規範の共有。
・コンプライアンス最優先の企業経営の実践。
○コンプライアンスの正しい理解
コンプライアンスへの正しい理解がなければ、それを守ろうとする意欲も十分ではなくなります。先ずは、自分にとって、自分の仕事にとって、自分が働く会社にとってコンプライアンスがどれだけ重要な意味を持つかを理解しなければなりません。
・管理職登用時のコンプライアンス教育の実施。
・相談窓口機能の充実と周知。
・コンプライアンス問題事例集の作成と勉強会の実施。
5-B 再発防止策実施のポイント
再発の防止のためには、その問題の原因が再び起こらないための対策を実施します。なぜ徹底されなかったのかの原因を探し当て、再発させないための具体的な対策が取られなければなりません。その原因は一つとは限らず、複数の要因が絡み合って起こるものも少なくありません。これらの原因を生まないための仕組みづくりが再発防止策となるのです。
○職場での良質なコミュニケーション
異なる意見を組織のエネルギーとすることが問題解決の核となります。人に“違い”があってこその組織力なのです。“違い”を遺憾なく活かす仕組みを実現させます。
○原則に立ち返って対策を立てる
発生した事象にとらわれることなく、会社の存在価値を考えることから始め、それを実現するための適切なマネジメントの体制を社会ルールに則って作りなおすことが最も早く効果的な取り組みと言えます。
○職場単位、仕事単位で考える
適切なマネジメントの在り方について職場単位、仕事単位で考えてみます。きっと今まで以上に働きやすい職場環境づくりが可能となるでしょう。
5-C フォローアップ
再発防止策を打った後にも、職場では、同様のことが起こりやすい環境が潜んでいます。常にリスクを想定し、チェック機能を働かせておくことが大切です。
○再発防止策の評価と見直し
再発防止策を実施することにより新たな問題が生じることも考えられます。再発防止策を実施したら、一定の期間ごとにその評価をし、必要があれば見直しましょう。
○相談者へのフォロー
相談内容によってフォローアップが必要と感じた場合は、例えば、3日、3週間、3カ月といった時期に相談者に連絡を取り、その後の職場環境について確認します。
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