2011.2.23

 

CSRと人権 

~CSR文化の創造と企業の発展~ 

 

1.CSR経営という考え方 

 

CSRとは 

Corporate Social Responsibility 

 

企業が利益を追求するだけでなく、組織活動が社会へ与える影響に責任を持ち、企業活動に関わるあらゆるステークホルダー(利害関係者)からの要求に対して適切な意思決定をすることを言います。最近では企業に限らずすべての組織に求められている取り組みであり、SRSocial Responsibility】ともいわれています。 

 

②企業を取り巻く環境の変化 

【市場のグローバル化、規制の緩和、競争の激化】 

 

市場のグローバル化や規制緩和、自由化、民営化などの動きで、企業の果たす役割は大きく変わり、また企業活動の影響力は大きくかつ広範にわたるものとなり、国境を超え、地球規模で人々の生活に関わってきています。 

 

③今日におけるCSRの考え方 

【企業は地域社会の人々やコミュニティに影響力を持つ社会的存在】 

 

社会から信頼され継続的に発展していくために、CSR経営は最重要課題なのです。

 

これまで企業は、利益を上げることを優先させ、富を創造し、多くの人に経済的繁栄をもたらしてきました。 

しかし、一方では、利益を優先するあまりその活動が、法律をはじめとする社会ルールを逸脱したり、ルールがないからといって法の精神を無視するような行為に出て、ひいては社会生活に不安を与えたり、ときには人の命を奪うなど、さまざまな問題が引き起こされてきました。

 

このような企業が起こす不祥事は企業の判断に対する信頼の欠如をもたらしています。このような時代背景の中で60年代から70年代にかけて、投資家や株主、NGOなどにより、企業活動の社会や環境への影響を懸念する声が高まってきたのです。 

消費者や株主の声が企業活動に大きな影響を持ち始めた時代です。

 

1960年代、アメリカではベトナム戦争に反対するため軍需産業を、アパルトヘイト政策を反対するため南ア関連企業の株を売却するなどの動きがみられ、1980年代に入ると、環境問題、女性、マイノリティ、人権、雇用といった項目を考慮するよう企業の求める動きが出てきた。

 

80年代に入ると、企業はその利益の社会還元としてフィランソロピーや文化活動支援、冠スポーツイベントなどを行ってきたのですが、社会への責任を果たすという意味では、企業活動本来の役割とはかけ離れていました。

 

今日では、企業の社会的責任と言えば、企業活動のプロセス全般において、経済的(財務的)貢献はもとより、社会的貢献、特に地球環境課題をはじめ、生活の安全、人権課題、労働環境への取組みを期待され、その活動に対する説明責任が強く求められるようになっています。

 

1997年には「経済」「環境」「社会」の視点から企業活動を評価する考え方(トリプルボトムライン)が発表され、財務諸表の最後(ボトムラインと呼ばれています)にその達成度を情報開示するよう上場企業に求めることとなりました。 

この3つがバランスよく発揮できる企業には持続可能な発展が望めるとして社会責任投資(SRI)の対象ともなってきています。 

 

このことは社会構造のグローバル化、多様化、複雑化と無関係ではあり得ないのですが、そのような事態において遵守すべきは単に法令のみではなく、国連やILO,OECDをはじめとする特定集団(組織)においてフォーマライズ(公式化)されたルール、企業が定めた経営理念や行動基準、就業規則など、あるいはインフォーマル(非公式)なルール等、例えば業界で定めたルール企業文化、職場風土など、社会的企業行動においてその組織の成員にとって行動基準となるような多くの規律が存在するようになり、それらを遵守し誠実な企業活動をなすべきとの“コンプライアンス”の考え方が広まってきたのです。

 

その考え方の根底には正しい倫理観をもってする行動という価値観(バリュー)があるのではないでしょうか。

 

この「倫理観」に照らして社会の期待に応える行為を実行することが、「誠実」な企業活動と言われるものであり、企業がお客様をはじめ、多くの人々からから信頼を得て、企業のブランド価値を高めることに繋がるのです。

 

すなわち、社会からの期待をしっかり踏まえ、企業の独自性を発揮しながら積極的に社会の課題にも取り組むとともに、疑惑や不信を抱かれることのないよう透明性の高い行為を行うことが誠実な企業活動”といわれるものであり、今日の企業に強く求められるものなのです。 

 

CSRの主要な取り組み 

【ステークホルダーとの共通の利益の追求:“Win-Winの発想” 

 

・健全な企業活動 【倫理に即した行動】 

・社会との調和  【地域社会・地球社会への貢献】 

・環境との調和  【持続可能な社会の実現】 

・人間の尊重   【「人権」「労働環境」といった人道的配慮】 

 

CSRを実現するためには、企業活動に関わりのあるステークホルダーを明確にし、その人たちの期待と企業活動がもたらす影響を把握することがまず初めに必要となるのです。

 

それでは企業にとって“ステークホルダー”とは誰のことを言うのでしょうか。 

それは企業活動に影響されるすべての人々を指します。 

もちろん企業によってその使命や役割は異なりますので、必ずしもすべてが同じとはいえませんが、経済がグローバル化し、技術革新やIT化がこれまでにない勢いで進む今日、その影響力は大げさに言えば地球上のすべての人々といってもよいかもしれません。

 

そこで重要となるのが、“Win-Winの発想”と“先を読む力”、そして何よりも重要なのが“ステークホルダーとの対話(ダイアローグ)”なのです。その対話の中から企業活動に期待することを探り当て、それに応えていく行動を積極的にとることをCSRへの取組みと理解してよいでしょう。

 

企業がイニシアティブをとって実践している社内外に向けた取り組みには様々なものがあります。 

 

社内向けには

 

倫理やコンプライアンスを促進するプログラム、ミッションやバリュー(価値)を設定しそれを実現するための行動基準の作成企業文化の創造、最近では国際化が進む中、異文化間の交流への取り組みなども進んでいます。

 

もちろん、企業におけるリスクを予測し、未然に防止するシステムを構築し、万が一起こったときにその損害を最小限に抑えるための対応や情報の開示の在り方について危機管理体制を整えてきています。 

もしこれを怠るようなことがあれば、その評判は一瞬にして様々なネットワークを介して世界中を駆け巡り、社会的信頼を失うばかりではなく、企業自体の存続が危うくなるのです。

 

社会の企業評価の在り方とインターネットの存在が企業の在り方を大きく変えたのです。 

企業は社会の一員であり、その役割をしっかり果たしている企業でなければならないのです。社会からの信頼なくして企業の存続はあり得ないということです。 

 

対外的には

 

企業のアイデンティティを明確にし、ブランド化を図るとともに、利害関係者(ステークホルダー)との対話を通じてそのニーズを明らかにし、その実現に向けて企業ができることを具体的に日常の活動の中で展開していく取り組みをしてきています。 

この取り組みにより、社会の期待に応えることで、社会の支持を得ることが将来に向かって企業活動を発展させ、持続可能な社会の実現に貢献していくことであると多くの企業関係者は気付き始めています。 

 

個々の取組みを見ると、 

 

従業員に対しては

 

個の尊重とその価値観の多様性をどう活かすのか、 

職場におけるセクハラをはじめとするハラスメントをなくすことで職場の生産性のさらなる向上を図る 

従業員の身体はもとより精神的な健康を高めるために、より安全で安心して働ける職場環境をつくる 

労働者人口の減少や少子高齢化社会を背景に、仕事はもとより家庭の役割をしっかり果たせるバランスのよい生活を実現するワークライフバランスへの取組み

 

そして、これまで経済的効率化を優先するあまり、人間が本来持っている様々な能力、困難に立ち向かう力、ものを考えだす創造力、一致団結して目標を達成する喜び、そして人を思いやる優しさとゆとりなど、誰もが持っている人間力を発揮できない環境をあるべき姿に引き戻すことが今必要になっています。 

 

顧客に対しては、

 

製品とサービスの品質向上はもとより、お客様とのコミュニケーションを通して企業活動を知っていただくとともに、CSRレポートやホームページを通して、社会に貢献することに熱心な企業であることを積極的にアピールする企業も増えています。

 

最近では、グループ経営や事業提携によって事業領域を拡大する中で、サプライヤーの果たす役割は大きく変化し、そこで果たす社会的責任は、グループ全体に大きく影響するため、企業は「生産基準」を定め、サプライヤーに対して、作業環境の安全性、従業員への威厳と尊敬をもった対応、環境に配慮した製造工程の徹底を求めています。

 

社会に向けての取組みは、環境問題への積極的な取り組みを始め、一市民としての社会的責任の遂行、地域社会への参画など様々な形で地球規模の課題と向き合ってきています。

 

さらに、今日的な課題として、人権の尊重、情報の保護や腐敗防止、バイオテクノロジーをめぐる諸問題への対応など、時代背景を踏まえた取り組みが展開されつつあります。 

 

CSR実践に向けた内部管理体制の構築 

【コーポレート・ガバナンス】

  

・方針の決定(CSR憲章・CSR行動基準等) 

☆ステークホルダーとの対話から共通の価値を創ること 

・責任箇所の明確化 

CSR行動規範の全社への周知と意識の定着、そして全社一丸となった取り組み 

☆「会社を愛し、会社をもっと良くしていく」という気持ちで仕事をすること 

☆「当たり前のことを当たり前に行う」こと 

☆常識的に法令その他の社会ルールを遵守し、その精神を企業活動の中で発揮していくこと 

 

コーポレートは「企業」、ガバナンスは「統治」を意味し、日本では「企業統治」と訳されています。米国では企業の不正や不祥事が起きるのは、経営者の独断が要因であるという問題意識から、経営を監視する企業統治の必要性が叫ばれ、規制を強化しています。
もともと米国では会社は株主のものという意識が高く、その株主至上主義から、経営者が粉飾決算に手を染めることになりました。短期的に株価を押し上げるために、利益操作をしたのです。20012002年は、エンロン、ワールドコムなど不正をしている企業の実態が表面化し、大きな社会問題に発展し、世界経済にも大きな影響をもたらしまし、企業活動が株主だけではなく、従業員、取引先、顧客などたくさんのステークホルダー(利害関係者)に様々な影響を与えていることを再認識することになりました。

 

日本では監査役が取締役を監視することになっていますが、大企業では社内から選ばれて監査役になることが多く、本来の公正な第三者としての監視機能が十分に発揮されていませんでした。その反省から日本でも会社法等により社外取締役や委員会等設置等の会社の制度が導入されました。 

 

経営者は常に「会社は社会の公器」という意識を持つことが大切です。

 

社会の公器とは、従業員や取引先、顧客、地域社会など企業活動が影響をもたらすたくさんの人に幸せを運ぶことであり、誠実な事業活動を通して、良い商品・サービスを提供して利益を出し、再投資しながら発展し、社会的課題にもしっかり向き合い、経営者、従業員そして様々なサプライヤーが一丸となって、企業活動を通して、誰もが幸せに暮らしていける持続可能な社会の実現に向けて貢献することが、会社の役割となっているのです。

 

コーポレート・ガバナンスの目的
(1) 利害関係者の利益を保障すること
(2)
 企業の目的を達成するため、企業理念をもって全役員・従業員・サプライヤーの活動が方向づけられていること
(3)
 経営者の独走・暴走を株主がチェックでき、阻止できること
(4)
 組織ぐるみの違法行為をチェックでき、阻止できること
(5)
 

 

コーポレート・ガバナンスの要素


(1) 経営の透明性、健全性、遵法性の確保
(2)
 各ステークホルダーへのアカウンタビリティー(説明責任)の重視・徹底
(3)
 迅速かつ適切な情報開示
(4)
 経営者並びに各層の経営管理者の責任の明確化
(5)
 内部統制の確立
 
コーポレート・ガバナンスを実現させるための手段


(1)  委員会設置会社の選択
(2)
 社外取締役、社外監査役の増員
(3)
 内部統制の仕組みの強化
(4)
  不公正な取引の規制・開示
(5)
 社員の行動規範や企業倫理憲章の設定
(6)
  情報開示体制の確立
(7)
  法務部の拡充・強化
(8)
 監査役のスタッフ部門(内部監査室など)の拡充・強化
(9)
 意思決定の会議体において喧々諤々の議論ができること
(10)
 内部通報体制の確立
(11)
 みんなが働きやすい「元気の出る職場」づくり
(12)
 それぞれの立場から自由闊達に意見が言える職場風土
(13)
 みんなで意見を出し合い、進むべき方向を定める合意形成の習慣

 

2.企業と人権

 

①グローバル化に伴い国際的クローズアップされる人権 

②企業にとっての人権 

・労働者の権利 

・企業活動により影響を受ける人々の権利 

・社会基盤の整わない地域・紛争地域における人権 

③人権を軽視することによる企業リスク 

④企業における積極的な取り組み 

 

①グローバル化に伴い国際的クローズアップされる人権 

 

次にどのようなことが企業活動において期待されているのかを見てみましょう。 

 

1900年代後半IT化や輸送技術の発展などにより経済のグローバル化が進むなか、資本主義諸国においては経済の行き詰まりを打破し競争原理を導入するためさまざまな形で規制緩和に取り組みました。それに伴い公正な競争を守るために法令をはじめ様々な形でのルール化が進むなど、「法化社会」の進展をも、同時にもたらしました。

 

すなわち、「人の支配」(官僚による統制)ではなく、「ルール」あるいは「法の支配」を基軸とする社会に移行し、事前に提示されている一定の条件が意味するところを正確に読み解く力が必要になってきています。すなわち「そのようなルール(法律)があることを知らなかった」では許されない時代が来たのです。そのためには法律が守ろうとしていることを正しく理解し、その精神を企業活動の中で発揮することが求められるのです。もちろん違法な行為をすれば、企業の命令であっても行為者自身が罰せられることになるため、安心して行動できるためのバックアップ体制、具体的には行動基準などのルールを策定し、気軽に相談できる窓口を開設するなどの体制を構築しておくことが必要となってきています。 

 

グローバル化により企業活動の影響力は国境を超え、地球規模になった今日事業活動を行う国の法律を遵守することはもとより、国際社会の定めたルール、例えば、国連が採択した世界人権宣言やそれに基づく各種条約、ILOが定めた労働者の働く環境条件に関わる諸条約、世界中の国が強い関心を持つ環境への取組みを定めた条約や議定書などへの参加と地球規模での課題解決に向け事業展開の中で積極的に活動することを企業に期待されているのです。

 

1999、国連のアナン事務総長は、世界経済フォーラム(ダボス会議といわれています)に参加し、国際企業に対して9つの原則からなるグローバル・コンパクトを締結しましょうと提案しました。 

グローバル・コンパクトは人権の尊重に関する2原則、労働者の権利に関する4原則、環境の保護に関する3原則、今ではそれに腐敗防止の原則を加えた10原則からなっています。 

200912月現在このイニシアティブに参加している組織は世界中の7151団体、日本では101の団体にのぼっています。 

 

また、国際標準化機構ISOがマネジメント(9000番台)・環境(14000番台)に次いで企業はもとよりすべての組織についての社会的責任(SR)のガイドライン(26000番)を発表しました。その取り組みの中核として、組織統治人権労働慣行環境公正な事業慣行消費者問題、そしてコミュニティ参画及び開発7つのアプローチについて方向性と具体的な取組み例を示していますので是非参考にしてください。 

 

ここに掲げている取組みは、地球で暮らすすべての人々、そして子々孫々の人々が「人間」として快適に生活できるために“持続可能な社会”の実現に向けた取り組みであり、社会の一員として義務として、企業においても企業活動を展開する私たち一人ひとりの行動の中で実現することが期待されているのです。 

 

このように今日の社会においては、個人だけではなく企業(あるいは組織)の活動においても「人権」を尊重し、地球規模の視野に立って、あらゆる人々にとって幸せで持続可能な社会を築く取り組みを期待されてきているのです。 

 

②企業にとっての人権

 

・労働者の権利 

・企業活動により影響を受ける人々の権利 

・社会基盤の整わない地域・紛争地域における人権 

 

それでは「人権を学ぶ」ということはどういうことなのでしょうか。 

 

わたしは、「人権」とは、私たちが人間らしく生きながら、それぞれの幸せを築いていくために必要なもろもろの権利の総称だと考えています。 

そして、自分の権利を行使するに当たっては、その結果について責任を負うことができるよう配慮しなければなりません。 

 

すなわち、自分自身の人生をどのように生きていくか、しっかりした考え方を持つことが必要であり、そのためには、この世の中にたった一人しかいない人間としての自分自身を大切な存在として認めること、すなわち自尊感情が基本となると思います。 

 

この自尊感情は、多くの場合他の人から認められることにより生まれるもののようです。 

意見を聞いてくれたり、努力していることを認めてくれたり、行動を褒められたりすることで、自分の存在を確認できると、人は自然と自尊感情を高め、存在することへの自信が生まれます。 

そして人間は自然と積極的な行動をとれるようになるものです。 

 

そしてもう一つ大切なことは、人は一人ひとり独立した存在であり、“違い”があることを認め合うことです。この違い”を認め合い活用することダイバーシティ経営)が今日企業活動において求められている多様性の尊重であり、創造性の源なのです。 

 

民族・性別・年齢・障害の有無・社会的立場・個性・価値観・情報・知識・アイディアなど様々な違いが今日の厳しい企業環境を乗り越えるためのパワーとなるのです。 

 

これらのパワーを活かすために必要なのが“コミュニケーション”です。 

 

コミュニケーションなくしてお互いを理解することが不可能です。 

企業活動の中では往々にして一方通行の指示命令が横行していますが、それでは働く者の力が十分発揮されないまま、固定的な成果しか生み出せないことになります。 

人間の本来持っている可能性を引き出しより一層の成果をもたらすためにも、“良質なコミュニケーション”すなわち目的を持って、対等な立場に立って、より良い成果をめざす“心からのコミュニケーション”が重要なのです。 

 

今日企業活動において大切だとされるCSRの取組みは、まさに“コミュニケーション”を活用し、企業が社会の期待を探り当て、それに応えていく取り組みなのです。

 

そこに“アサーション”というコミュニケーションの方法を紹介していますが、これはちょっと言いにくい話でも、相手を悪者にすることなく、素直に自分の気持ちを伝え、自分の気持ちを知ってもらうためノウハウです。ぜひ皆さんも、とくに話しにくい上司にトライしてみたらいかがでしょうか。Iメッセージで自分の思いを上手に伝えると、きっと上司はそう思っていたのか、なるほどと受け入れてくれる可能性大です。 

 

人権問題で問題になるのは、ステレオタイプ的な考え方と偏見です 

 

例えば、お医者さんの評価に例えてみましょう。 

「お医者さんは好きだ。みんなやさしいから」これは偏見です。 

自分の経験から、すべてのお医者さんは優しいものなのだとの決めつけているのです。 

偏見といわれる場合多くは、マイナスイメージを持つことを指します。 

「やさしいお医者さんは好きだ」これは自分の意見を申し述べているのです。 

やさしく対応してくれたお医者さんに好意を持ったことを述べています。 

最後に「お医者さんは優しい人たちだ」というのがステレオタイプ(自分の経験によりある集団に人たちに固定的イメージを持つこと)です。 

ステレオタイプが敵意や感情と結びつくと偏見や差別を生みだします。

 

日常の生活の中で、人々を勝手に分け隔てしてレッテルを張っていることはないでしょうか。 

あいつはダメなやつだ」とか「やっぱり女だからな」「男のくせに」「お前は大卒だろ」といったレッテルをはり出すと、その後の相手を見る見方がその偏光グラスにより誤った見方をし続けることになります。

 

職場のハラスメントはこのようなところから生じやすいのです。 

セクシュアル・ハラスメントは、女性を下に見る考えから生まれると言われています。

パワー・ハラスメントは、相手を自分の所有物のように考え、人として尊重しない考え方が引き起こします。 

 

ここで国内外の人権への取組みについてみてみたいと思います。 

 

2度の世界大戦の反省を踏まえ、平和な社会を築くために、国連は世界人権宣言を採択しました。1948年のことです。 

その後さまざまな取り組みがなされる中、今日いくつかの普遍的なルールとして国連が定める6つの条約を紹介します。 

まず初めに世界人権宣言を具体的な形で定めたものが経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(これはA規約、社会権規約と呼ばれています)。労働の権利社会保障についての権利教育についての権利などの社会権の保障について定めています。 

次に市民的及び政治的権利に関する国際規約(これはAB規約、自由権規約と呼ばれています)。この規約では身体の自由と安全移動の自由思想・良心の自由差別の禁止法の下の自由の保障について定めています。 

今ワールドカップが開催されている南アフリカではかつてアパルトヘイト、黒人差別政策が行われており、国際社会はそれに抗議するため貿易に禁止などさまざまな制裁措置が行われる中、国連は1965年人種差別撤廃条約を批准しました。これらの取組みにより1989南アフリカは政策を大きく転換し黒人との対話路線を歩み始めることになったのです。 

この条約は日本においても大きな影響を与えています。出身や国籍の違いへの不当な扱いに対して裁判所は法律に定めはないが日本が人種差別撤廃条約を批准しておりこの条約に基づき不当に外国人の入店を拒否した宝石店主に対して損害賠償を命じています。 

 

1979年には女性差別撤廃条約が批准され、あらゆる女性に対する差別をなくす取り組みがなされるようになり、国際社会は、法令の見直しはもとより、社会慣行や習慣のもみ直すことを約束しました。日本も1985年にこの条約を批准する上で男女雇用機会均等法制定などの法的整備を行っており、さらに女性への暴力撤廃に向けてセクシュアル・ハラスメントはドメスティックバイオレンスのなくすための法整備を行っています。 

 

人権を学ぶために大いに役立つのが「子どもの権利条約」ではないでしょうか。 

この条約は戦争の最大の被害者である女性と子どもの権利を保障するための取り組みとして採択されたものです。子どもも大人と同様社会の一員であり、選挙権を除く人権の主体として認めようということです。

 

具体的には、 

生きる権利  防げる病気などで命を奪われることのないよう、治療が受けられること 

育つ権利   教育を受け、休んだり遊んだりできること、考えや信じることの自由が守られ、自分らしく育つことができること 

守られる権利 あらゆる種類の虐待や搾取なおから守られること 障害のある子どもや少数民族の子どもなどは特に守られること 

参加する権利 自由に意見を表したり、集まってグループを作ったり、自由な活動を行ったりできること 

など様々な視点から子どもの権利を保障するための定めがなされています。 

 

この宣言や条約が採択されることにより国際社会の人権への取組みは急速に進み、今では、企業の行動基準の重要な地位を占めるほどになってきています。

 

2000にはノールウェイの調査会社が企業あてのアンケートの中で、「人権政策」について聞いてきています。世界人権宣言に賛同していますか。 

労働者の権利を保障していますか。児童の労働を使用していませんか。 

従業人の働く環境に十分な配慮をしていますか。 

問題が起こったときに適切な対応がとれる体制は整っていますか。 

相談窓口を設けていますか。 

訴訟になっていることはありませんか。あればその内容について。 

調査会社はこのことを調査し投資家たちに当該企業が投資に値する企業かどうかを判断してもらうのです。

 

私には、このアンケートが、人権への取組み企業活動に活力と成長をもたらす力となるのだという考え方があることを知るきっかけとなりました。当時ノールウェイでは企業連盟に人権チェックする機能を持っていたのではないかと思います。 

 

国内での取組みについて 

 

日本国憲法では基本的人権を保障する旨定められており、様々な課題に対して法整備が進んでいます。 

資料で確認しておいてください。 

 

それでは人権が尊重されるとはどういうことなのか考えてみたいと思います。 

 

私たちは日常生活を送る上で、多くの人と関わりを持ちながら生活しています。 

もちろん静かに物思いにふけったり、自然の中で鳥の声や風のそよぎを楽しむこともあるでしょう。しかし人間が自分の一生を旅する時に多くの人たちとの出会いがあり、その出会いの中で様々なことを学び成長しながら、自分の人生を選んでいくのです。 

だれもが人生が自分にとって幸せであればと願い、精一杯の努力をしています。 

人権は幸せに生きるための権利といわれます。 

 

それでは私たちはどのような時に人権が尊重されていると感じるのでしょうか。

 

資料7では私が生活を送る上で大切だと思えるものを拾い出してみたものです。 

まずは個性考え方価値観をあげました。自分らしくありたいと思っており、自分の個性や大切にしたいものを守っていけたらいいなと思います。 

企業活動においてもその企業らしさというものがあって、ブランドを形成しており、その企業らしさがお客様を引き付ける力となっているようです。 

 

次に挙げたのが、人格名誉です。努力してやっていることが周囲の人から認められたり、一生懸命お客様のために取り組んでいることに感謝されたり、ちょっとした心遣いを褒められたりすると嬉しいものです。こんな時、私自身を社会の一員としてしっかり位置づけられたような気がして結構誇らしく思えたりします。 

特に仕事で困っているときに、相談すると、助言してくれたり、新たな視点に気づかせてくれる上司や同僚がいると感謝感謝です。

 

でも時には相談しにくい上司も登場するものです。こんなときは、自分なりに考えをまとめ、自分としての意見を聴いてもらい、上司としての視点で参考になる意見を聴かせていただく姿勢が必要です。相談されて嫌な上司はいないものです。 

もちろん上司といっても完全な存在ではありません。知らないこともあれば間違って理解していることも少なくないはずです。 

こんな時、自分の考えと上司の考えを提供しあってより良い答を導き出そうとするアサーティブなコミュニケーションは大いに役立ちます。

 

こんなコミュニケーションはお互いを成長させるエンジンの役割を果たすと考えています。 

 

職場でのキャリアアップを実現するためには、自分の意見を表明できること、機会が公平に与えられること、そして努力したことが公正に評価されることが大切です。 

業務を達成する上では、必要な教育の受講、情報の提供、事前準備などの機会を与えてくれたことは大いに役立ちます。しかし、女性だからとか、契約形態が違うからといった理由で、教育機会が与えられなければよい仕事はできません。 

 

仕事に必要な情報をもらえなかったり提供がいつも遅かったりすれば、ミスが生じたりときには大きな事故に繋がることさえあるのです。 

仕事は常にオープンで、必要な情報が得られる状況があって初めて正しい判断を可能にするのです。今日企業における様々な問題に対して社会は企業活動の透明性を求めているのは、企業活動は社会と大きく・深く・複雑に関わっている証ではないでしょうか。

 

間違いは起こります。しかし隠ぺいは意図してなされるものであり、人を欺くものです。信頼を失う大きな要因です。 

 

最後に、最も大切なことは、私たち誰もが健康であることです。

 

心身の健康を害することは、生活する上でさまざまなに阻害要因として悪影響をもたらします。企業活動にあっては生産意欲を低下させることはもとより、ミスや事故に繋がり経済的な損失をもたらします。 

それは職場全体に及び、国家的規模での損失を生んでいるとされる職場のハラスメントの問題を見ても明らかではないでしょうか。 

 

人権の視点で仕事の進め方を考えてみましょう。 

 

企業は経済のグローバル化IT化情報化などの進展とともに競争の激化の波に見舞われ、激しいコスト競争の渦の中にます。 

その対応のために、終身雇用制をなくし、成果主義を導入、一人ひとりの生産性を高めるとともに、最後の砦である人件費にも手を加えざるを得ない今日、様々な契約形態の人たちが同じ職場で働き、仕事の一部をアウトソーシングし、ますます仕事における人間関係は複雑になってきています。

 

これらの動きは、職場における人間の分断化をもたらし、様々な問題を引き起こしているのではないだろうかと、気がかりです。 

契約形態が異なれば、当然、役割や責任が異なり、働く時間もそれぞれです。しかしそのことで、人が一方通行の指示命令の下パッケージに閉じ込められた状況で、人間が持っている本来の思考ものを考える力意見を述べること、そして人間としての可能性までも閉じ込めてしまっているとしたら、企業にとっても、社会にとって大きな損失と言えるのではないでしょうか。 

 

サプライチェーン・マネジメントの欄をご覧ください。 

 

原料の調達から販売まで数多くのプロセスの中に大勢の人が働いています。 

それも国境を超えそれぞれの文化や法律の下にビジネスが展開されているのです。 

私たちの仕事はこのように多くの人たちの協力によって成り立っており、そこには大勢の働く人とその家族の幸せな生活がかかっているのです。 

立場の強さで、一方的な押し付けが行われるとしたら、それこそ誰かの貧困にあえいでいる生活の上に、自分たちだけの利益を求めることになってしまします 

 

経済活動がグローバル化し、コスト競争の打ち勝とうとした多くの企業が、子どもたちの労働力まで借り出し、健全な発達と幸せな生活を奪ってきたことが大きな社会問題として取り上げられ、厳しい社会の批判にさらされたことは数多くあります。

 

近代化した社会において教育を受けるべき世代に労働を強いられるとしたら、子どもたちは未来永劫厳しい労働環境で働かざるを得ないことが問題とされたのです。もちろんその国の未来を支える人材が育つことはないのです。

 

子供たちにとっての教育の機会は、私たちの未来にとって決して奪ってはならない大切な機会なのです。 

 

このようにビジネスを世界的な視野で見詰め直し、そこに関わるステークホルダー(利害関係を有する人たち)の意見や生活の向上、地域社会の発展絵の期待を事業活動に反映することで、健全で持続可能な社会の実現に貢献していく人権の視点に立った取り組みが企業の求められているのです。 

 

3.まとめ

 

☆人権尊重の企業文化の創造は、21世紀の企業活動において、欠くことのできないもの

 

☆対話にオープンな姿勢を持ってこそ、お互いを理解し合い、信頼関係を持って共に未来を築きあげることができるのです。

 

☆人間の素晴らしい可能性を見出し、発揮させるための環境づくりこそ企業の未来を創造する力となるのです。 

 

新しい考え方、価値観へギアをシフトさせることが企業活動を持続可能とするために不可欠なものになっていると言えるのです。

 

【ヒューマニゼーション研究所】 

所長 黒永 敬 

humanization-labo@mist.dti.ne.jp

 

《参考》

 

【トリプルボトムライン】

 

1997年にイギリスのサスティナビリティ社のジョン・エルキントン氏が、決算書の最終行(ボトムライン)に収益、損失の最終結果を述べるように、社会面では人権配慮や社会貢献、環境面では資源節約や汚染対策などについて評価をし、述べるべきと提唱した。