部落差別を許さない社会は

 どんな社会?

 

私たちの仲間に、部落差別と闘っている仲間がいます。部落差別で苦しんでいる仲間がいます。

彼は、妻となる女性の父親が部落出身であることを知りませんでした。

彼女自身も、自分の親が部落出身であることを知らなかったのです。

それでは、どうして部落出身であることで両親から激しく結婚を反対されたのでしょうか。

彼の母親は、近所のお母さんから「お嫁さんはどこから来るの」と聞かれたのです。

当然、母親は、彼女が今住んでいる所を伝えました。

  

近所のお母さんは、「お嫁さんの両親はどこの出身」と尋ねました。

彼の母親は、両親の出身を聞いていましたから、そのことを伝えました。

「あそこはだめよ」と近所のお母さんは、彼の母親にいったのです。

彼の母親は、はじめて彼女の親が部落出身者であることを知って、自分の息子の結婚を許してはならないと感じ、父親ともども猛反対をし始めたのです。

 

彼も彼女も、部落差別のことは知っていました。

しかし、この様に自分たちがその当事者となるとは全く考えていませんでした。

あまりに突然のことで彼と彼女は戸惑いましたが、結婚の意志は強く、仲間の支援もあって、着々と結婚の準備が進みました。

彼らの説得にもかかわらず、両親の意志は強固で、みんなに祝福されながらの結婚を夢見ていたのに、ついに二人の結婚式には、3人の親族が祝ってくれただけで、両親は参加してくれなかったのです。

 彼は、彼女からの「あなたを信じています」というひとつの言葉に勇気をもらい、彼女とともに地域社会に潜む部落差別の意識と闘っているのです。

 

あれから20年、今、3人の子どもと幸せに暮らしています。

両親とも、お孫さんの誕生を機に関わりも戻ってきています。

 今、一番上の子は17歳、高校の3年生になりました。

  

「今の気持ちは」という問いかけに、彼は、「不安がないわけではありません。学校で何か起こらなければいいが、子どもの就職がうまくいくだろうかなど心配事はたくさんあるけど、自分たちの生き方に自信を持っていくしかありませんよ。子どもたちには、小さいころから話してあるんですよ。周りの人たちには自分の思いを話し、みんなよく分かってくれています。でも、社会に潜む意識はなかなか難しいですね」

  

この様な思いを持ちながら、大切な人生を送ることは幸せなのでしょうか。

この様な思いをしている人たちを、自分たちとは関わりのない人たちだと無関心に放っておいて、同じ社会で生活している私たちは本当に幸せなのでしょうか。

  

私たちは、勇気を持って部落差別と闘っている人たちを

 職場で、地域社会で支えられる仲間(市民)でいたいのです

 そんな仲間が暮らす社会でありたいのです

 

 

同和問題を理解するとは

 どのようなこと?

  

同和問題は、誰でも知識として理解できるし、多くの人は、自分は差別しない、差別は許せないと考えています。

しかし、いざ自分がその当事者になったり、自分の利害に関わってくると、その考え方がふらついたりすることもあるようです。

私たちは、同和問題を、部落差別をなくし誰もがお互いの立場を認め合い幸せに生きることの出来る社会をつくる取組みと考えています。

  

部落差別の実態から学ぶことは、部落の人たちがその生まれによって左右されるのではなく、ひとりの人間として、みんなと同じ社会の中で、お互いを認め合いながら協力し合って生きていくことの大切さを感じ取り、出身によって特別な扱いを受けることなく誰もが努力すれば同じチャンスを与えられる、そんな社会の実現を求めているのです。

  

同和問題を理解したということは、すなわち、日常生活の中で、出身や国籍の違い、立場や性の違い、年齢の違いや障害の有無など一人ひとりが持っている特徴で、私たち自身が異なった取扱いをしない、異なった取扱いがあったらそれはおかしいと言えることなのです。

  

世界にたった一人しかいない私を大切に思い、人から大切にされたいと思う気持ち、自分らしく活き活きと生きたいと言う気持ちに気づきたいのです。

この思いに気づき自分を大切にしようとする思いが、他の人が「自分らしく生きる」機会すら与えられず、悲しみ、涙を流し、自分のアイデンティティを押し隠しながら歯を食いしばって生きていることの辛さを感じ取ることができ、そのことに無関心のまま放っておけないとする感応力(感じ取り対応する力)となるのだと思います。

同和問題から学び、人権尊重の精神を理解することは、さまざまな人権に関わる問題を理解することにつながるのです。

 

自分自身にとっての「人間の尊厳」とはなにかを考える大切な機会なのです。

  

自分が抱える人と人との関わりの中に潜んでいる問題を自覚し自ら解決しようとする力は、部落出身であることで差別されている人たちや外国籍であるがゆえに差別されている在日コリアンや在日外国籍の人たち、障害を持って生活している人たち、性の違いで仕事のチャンスをもらえない人たちの思いに共感し、誰もが、それぞれの立場の中でアイデンティティを持って自分らしく生きることを支える力につながると考えています。

  

私たち一人ひとりが

 「人間」としての誇りを持って人と関わるならば

 お互いを大切にし、その存在を認め合い

 一人ひとりがそれぞれの立場の中で

 持てる力を思う存分発揮できる職場や社会が創造できると信じています