《 コンプライアンス通報・相談対応マニュアル 》

 

<目次>

 <コンプライアンスとは>

 <コンプライアンス窓口の役割と責任、権限>

 <窓口の対応の範囲>

 <通報・相談受付および受付後対応の基本>

 1.通報・相談窓口整備

 1-A 窓口のスタンス

 1-B 受付内容の範囲

 1-C 受付担当者に求められること

 1-D 受付の環境

 2.受付の進め方

 2-A 受付の流れ

 2-B 信頼関係を築くための留意事項

 2-C 受付時の確認項目および記載事項

 2-D 聴くスキル

 2-E 受付終了の留意事項

 3.対応方針の決定

 4.調査の実施

 4-A 不正・違反の事実確認のための基本的対応

 4-B 人間関係の事実確認のための基本的対応

 4-C 通報・相談取り下げの申し出への対応

 4-D 匿名の場合

 5.調査結果の分析

 5-A 分析

 5-B 再発防止策の検討

 5-C マスコミ対応の是非

 6.通報・相談者への報告

 6-A 通報・相談者への報告内容

 6-B 通報・相談者が調査結果に異議を申し出た場合

 7.是正措置・再発防止

 7-A 是正措置・再発防止のための具体策

 7-B 再発防止策実施のポイント

 7-C フォローアップ

 8.情報管理と活用

 8-A 情報管理の目的

 8-B 情報の活用法

 8-C 情報のデータ管理

 9.情報管理

 9-A トップ、コンプライアンス委員会への報告

 9-B  社内への情報公開

 9-C  社外への情報公開

 

<コンプライアンスとは>

 コンプライアンスとは、企業が活動するうえで、その属する社会のルールに則り活動することを言います。社会のルールとは、法令はもとより、国際社会が定めた条約など広く社会規範と言われるもののほか、業界で定めた規範や企業が独自に定めた各種規則や行動基準、そして企業が社会に向けて発信した様々なメッセージも含まれます。見方を変えれば、社会の利益、社会生活者の利益、そして企業の利益を大切にしながらそれらの実現に向けて企業活動を行う“Win-Winの考え方”ともいえるのです。

  

<通報・相談窓口の役割と責任、権限>

 通報・相談窓口は、コンプライアンス統括部署(あるいはコンプライアンス委員会)の一部として企業に関わる全ての人からのコンプライアンスに関わる通報・相談を受け付け、対応する役割を担っています。

 この意味から、通報・相談窓口は、企業活動に関わるコンプライアンス関連の問題に対して責任を持ち、その解決を通して健全な企業活動を推進するための権限を事業主から委嘱されているといっても過言ではありません。その権限は、具体的な取り組みの中で、関連部署と連携しながら発揮していくことになります。

  

<窓口の対応の範囲>

 通報・相談窓口は、企業活動におけるコンプライアンスを推進する上で重要な役割を果たします。特に、コンプライアンスに反する行為、あるいはその恐れのある行為を通報・相談を通していち早く察知し、必要な措置をとることにより自らの行為を正していく重要な機能を果たします。問題には気付いているが社内で話しだすことができないと、結果、外部に持ち出され、大きく社会問題として取り上げられ、社会からの信頼を失い、企業のブランド価値を大きく低下させることになったりします。

 この様に考えると、通報・相談窓口では、通報・相談内容が企業活動に関わりない内容であることが明確になるまで、通報・相談者の話をよく聴き、そのうえで通報・相談内容の妥当性を判断することが求められるといってよいでしょう。コンプライアンス違反だけを対象とすると言って、通報・相談の入り口でその道を閉ざしてしまえば情報は入ってこないのです。アンテナを常に高く張っておくことが重要です。

   

<通報・相談受付および受付後対応の基本>

  

1.通報・相談窓口整備

 通報・相談窓口は、「何かおかしいぞ」、「こんなこと変えたほうがいいのでは」、「こんなこと許していたら働く意欲を失ってしまう」、「こんなこと相談していいのかな」といった、企業で働く様々な人たちの思いをキャッチする重要なアンテナの役割を果たします。

 不安な気持ちでいる通報・相談者が安心して話せる窓口にするためには、通報・相談者の思いをしっかり聴ける人を配置し、通報・相談しやすい方法や時間帯を設け、プライバシーを守る環境づくりなど体制の整備をすることが必要となります。

  

1-A 窓口のスタンス

 通報・相談窓口は、通報・相談者が抱える問題を一緒になって考え、その解決に向けて支援する役割を果たします。どんな問題にも耳を傾け、真剣に向き合ってくれることが、通報・相談者にとって大きな力になるのです。担当者は、通報・相談者が「相談して良かった」と感じられる窓口であるよう心がけてください。

 ・誠実な対応を心がける

 ・まずしっかり話を聴く

 ・プライバシーを守る

 ・通報・相談者の気持ちに寄り添う

 ・中立かつ公正な立場で問題に向き合う

 ・通報・相談者の精神的な面にも気配りする

 ・問題の解決に向けて迅速に対応する

  

1-B 受付内容の範囲

 通報・相談窓口が取り扱い内容を正しく把握するためには、コンプライアンス事項を明確にする必要があります。

 しかし、これは非常に広範にわたっており、すべての人に理解させることは困難だといえます。また、コンプライアンスの対象事項も時代の変化によって変わっていきます。

 ではどうしたらよいのか。それは、企業活動の関連で起こっている行為が社会のルールに反していないかと問うことです。

 

 ○アンフェアな取引がなされていないか

 価格の操作、下請けいじめ、無理な値引き交渉、欠陥隠し、産地偽装

 ○誰かが不当な扱いを受けていないか

 労働関係法に反する行為、不可能な業務指示、性差別、サービス残業

 ○社会が取り組んでいることに反する行為をしていないか

 男性の育休申請の拒否、環境の破壊、持続可能な社会への無関心、反社会的勢力との関係継続

 ○安心して安全に働ける環境にあるか

 ハラスメント、過重労働、事故の多発、教育機会の不提供、私生活への過度の介入

 ○他人の権利を侵害していないか

 知的財産権侵害、目的以外の情報の利用、本人了解なしの個人情報の開示

 ○情報を改ざんしていないか

 会計帳簿への虚偽表示、会計帳簿の改ざん

 ○有利な立場を悪用して利益を上げていないか

 インサイダー取引

 ○瑕疵あることを隠して商売していないか

 リコール隠し

 ○会社の金品を勝手に流用していないか

 領収書の改ざん、備品やPCの個人使用、印紙や切手の流用、商品の横流し

 ○金品を提供して有利な条件を得ようとしていないか

 贈収賄、過剰な接待、不当なマージンの要求

 ○無駄使いをしていないか

 無駄なコピー

 

これらの行為が仕事との関連で起こっていたり、起こりそうな状況にあれば、コンプライアンス問題として取り扱います。より広くとらえておくとすれば、企業活動におけるすべてのステークホルダーとの信頼関係を損なう行為はコンプライアンスに関わると考え、通報・相談を受け付けましょう。

  

1-C 受付担当者に求められること

 通報・相談窓口の受付担当者は、誠実な対応を心がけ、様々な不安を持っている通報・相談者と向き合い、胸につかえている思いを口に出してもらうよう導く力が必要です。そのためには、まず「この人なら話をしても大丈夫だな」と思ってもらえる信頼感を持ってもらうことが大切です。まずは聴き上手になるノウハウを身につけましょう。

 また、窓口は問題を明らかにしてその解決に向けて取り組むわけですから、的確な質問を投げかけることにより、通報・相談者が持っている事実や思いを出来るだけ明確にすることも必要です。

  

1-D 受付の環境

 受付の環境整備は、気軽に、安心して通報・相談してもらうために重要な取り組みです。特に、通報・相談の秘密保持にとって配慮すべき点が多くあります。

 

 ○窓口専用スペースの確保

 通報・相談を受けるに当たって特に重要となるのは、通報・相談者等のプライバシーを守りながら解決を図ることです。電話対応のための隔離されたスペースの確保、専用の電話、FAX、専用の電子メールアドレスとパスワード管理なども必要です。

 ○話しやすい面談場所の確保

 気軽に訪問しやすい場所を選びます。時には社外(喫茶店等)の指定の場所を選ぶことも必要です。

 ○連絡しやすい時間帯の設定

 受付時間帯が勤務時間内であると通報・相談がしにくい場合が多いようです。社外窓口を活用した時間外、休日の受付窓口を整備するなどして、通報・相談をしやすくする必要があります。昼休みや時間外に会って話を聴く配慮も必要です。

 ○男女の担当者の配置

 通報・相談者等が、受付担当者として違う性別の担当者を希望するケースがあります。その場合は、理由を確認し、必要があれば可能な範囲で対応することが望ましいでしょう。

 

2.受付の進め方

 コンプライアンスの問題を明らかにし、解決する上で最も重要な役割を果たすのは、受付です。受付がうまくいくかどうかによって、問題解決の効果、スピードが大きく違ってきます。特に、職場で話しにくい話題を出来るだけ正確、かつ具体的に聴きだすための工夫が求められるのです。

  

2-A 受付の流れ

 

 ○簡単な自己紹介

 受付を始めるに当たって、担当者はまず簡単な自己紹介を行います。

 「はい、通報・相談窓口の○○と申します。お電話いただきありがとうございました」などとゆったりした雰囲気でやさしく安心させるように相手に伝えます。通報・相談者が別性の担当者を希望する場合は、できるだけ対応しますが、対応できない場合はその旨伝え、「私が誠実に対応させていただきますのでよろしいでしょうか」と伝え、了解を得ます。

 ○基本的な対応フローについて説明

 通報・相談受付後の対応について、簡潔に説明し了解を得ます。

 ○秘密の厳守とプライバシーの保護を約束

 「何でもありのままをお話しください。ここでお話しいただいたことに関しては、プライバシーや秘密は守られますのでご安心ください」と秘密が守られることを告げ、安心して話せる場であることを伝えます。

 ○他者への開示についての説明

 問題解決に向けて適切な対応をとるために他者への通報・相談内容の開示が必要な時は、事前に通報・相談者の了解を得てから開示することを約束します。

  

2-B 信頼関係を築くための留意事項

 信頼関係とは、通報・相談者が安心して自由に自分の思いを話せる関係と言えるでしょう。でも、通報・相談者がすぐに窓口の担当者に信頼感を持てるわけではありません。むしろ本当に私の話を聴いてくれるのだろうか、話をしたらかえって厄介なことになってしまうのではないだろうか、話は聴くけど何もしてくれないのでは…、等々、不安な思いを持ちながら、やっとの思いで相談してくることが多いのです。

 では、どうしたら通報・相談者と信頼関係を築くことができるのでしょうか。ポイントをいくつか示してみますので、これだと思うものを活用してみてください。

 

  ○相談者の気持ちを尊重

 問題を抱えた通報・相談者は、往々にして物の見方が固定的になったり、偏ったりします。しかし、その問題を広く客観的に見ることができるのも通報・相談者自身であり、問題解決の糸口も持っています。担当者は、通報・相談者の話をじっくり聴き、いわば鏡となって気持ちや考えを映し返してください。そうすることによって、通報・相談者は自分の抱えている問題を整理することができ、担当者に問題を正確に伝えることができるようになります。

 ○「あなたの話をしっかり聴いています」というメッセージ

 話を聴いていることがきちんと相手に伝わると感じて初めて、相談者は何とかしてほしかった思いをしっかり伝えることができるのです。話が大切な内容になったら、うなずきで共感を示したり、言葉を繰り返して相談者の思いを表現してみましょう。特に、感情面に共感した時は、その思いをあなたの言葉で返してあげてください。きっと通報・相談者は自分の思いを分かってくれているんだなと安心感を持つでしょう。

 例えば、怒っているんだなと感じたら、「そのことに怒りを感じているんですね」と。間違っていてもかまいません。その時には、通報・相談者が、「いや、そうじゃなくて、悲しいんです」などと自分の思いを言ってくれるはずです。

 ○問題の背景に思いをはせながら、問題の本質を探る質問

 通報・相談者は、自分の主張をするために話をしますが、問題の背景を想像しながら、的確な質問を投げかけ、問題を冷静により客観的に眺められるように支援します。「なぜ問題だと思うのですか」とか「どうして上司はそのような行動をとったと思いますか」「日ごろはどんな状況なのですか」「今回が特別なのですか」「あなただけがターゲットにされているのですか」「なぜ上司は相談に乗ってくれないと思われるのですか」など、その状況に応じた質問により、通報・相談者は、問題を冷静に見つめなおすことができるでしょう。

 ○性急な結論は差し控える

 自分の考えを押し付けたり、相手を指導しようとする気持ちを抑え、まずは、通報・相談者の話をしっかり聴いてあげましょう。忠告や解決策の提案は、それからでも遅くはありません。むしろ話を差し込むと「やっぱり聴いてもらえないんだな」と不信感が生まれ、言いたいことも言わずに口を閉ざしてしまいかねません。

  

2-C 受付時の確認項目および記載事項

 通報・相談者の話を聴きとることに一生懸命になってしまったり、時間が長くなって戸惑ったり、思わぬ申し出がなされると、ついつい聞き洩らしてしまう事項も出てきてしまいます。そこで大切なのが受付表です。受付表記載事項に従って話を聴いていくことで、事後の事実調査が効率的、かつ正確になされ、問題の解決にも役立ちます。

 

《 通報・相談受付事項 》 

 

受付日時:    年   月   日(  )   :  ~  :  [相談担当者:     ]

受付方法□電話 □面談 □メール □封書 その他(                            )

通報・相談者氏名        所属           職位        契約形態                  連絡方法]電話:          メール:            その他: 

□相談者から連絡 □面談の是非 □その他(                          )

□匿名(匿名の理由・会社に直接言えない理由等)(                       )

 

発生日時等*継続して発生の場合には発生状況および頻度

     年   月   日(  )         時頃  発生場所:(                  )

 発生事実(                                                 )

     年   月   日(  )         時頃  発生場所:(                  )     

 発生事実(                                                 )   

     年   月   日(  )         時頃  発生場所:(                  )     

 発生事実(                                                 )

     年   月   日(  )         時頃  発生場所:(                  )     

 発生事実(                                                 )

 

相  手氏名           所属         職位         契約形態   

通報・相談内容(事実{[5W2H]}および相談者の思い)

申出者確認:□本人、□第三者(□同僚 □友人 □先輩 □上司 □家族 □その他(        )

申し出内容:申し出事実は時系列に並べる

 

コンプライアンス違反と判断した理由

[ルール違反]□法律・政令・条例等 □就業規則・行動規準等 □業界ルール・ガイドライン □国際基準

[その他]  □社会規範 □倫理

 申し出理由:(                                                )

 

通報・相談者の対応:(発生時にどのような行動をとったか)

 

 

証拠・証人の有無:

[証拠]

 

[証人](証言意思の有無)

(有・無)氏名         所属      職位      契約形態

(有・無)氏名         所属      職位      契約形態

(有・無)氏名         所属      職位      契約形態

[証言概要]

 

 

既に誰かに相談しているか:

[相談した相手の氏名]         所属        職位        契約形態

[相談した時期]

相談した相手の対応の内容

通報・相談者が望む対応:

[問題の解決]

 

[職場環境の修復・改善]

 

[行為者の処分・謝罪]

 

その他の申し出:

[日常の職場状況]

 

[相談者の体調]

 

[会社への要望事項]

今後の取組:

[事実確認に向けての具体的取組・スケジュール等]

 

 

[相談員からの助言]

 

 

問題解決に当たっての要望事項:

[事実調査時に確認を希望する事項]

[調査時に配慮してほしい事項]

[改善を希望する事項]

 

窓口担当者感想:

 

 

2-D 聴くスキル

 通報・相談受付で最も重要なスキルは聴く力です。

カウンセリングのノウハウを大いに活用しましょう。

 聴く力には、話し手に対して望ましくない態度を取らないよう配慮することも重要になります。

 ○心を開いて傾聴

 ・こちらの聞きたいことを聴くのではなく、相手が話したいことを聴く

 ・意見を挟まないで、心ゆくまで話してもらう

 ・相手の気持ちを理解しようとしながら聴く

 ○会話に使われるスキル

 ・うなずき・あいづち

 ・確認のための繰り返し

 ・確認のための要約

 ・感情への応答

 ○話を聴く態度

 ・親身になって聴く

 ・先入観を持たない

 ・相手の目線に立って聴く

 ・相手のトーン・ペースに合わせて聴く

 ・相談者の立場を理解しながら聴く

 ○的確な質問通報・相談者の思いを自由に述べられるオープンな質問が効果的

 ・問題を掘り下げることを支援する質問

 「その時どのような思いでしたか」「ほかに何か申し出たいことはありませんか」

 ・相談者の話を方向づける質問

 「その時どう対応したのですか」「会社にどのような対応を期待しますか」

 ・相談者の心を映し出す質問

 「…をつらく感じているのですね」

 ・担当者がどのような点に関心を持っているかを示す質問

 「なぜそのようなことが起こったとお考えですか」

 ○望ましくない態度

 ・話を聴く前から結論を決めつける

 ・相手の話は、自分にとって無意味、大したことがないと思い込む

 ・聴かない、または理解した振りをする

 ・自分が聞きたい話題だけ聞き、その内容にこだわる

 ・相手の話をさえぎり、自分の意見を伝える

 ・相手が話し終わらないうちに内容の判断を下す

 ・感情的になる

 ・早急に結論を出す

  

2-E 受付終了時の留意事項

  受付の終了に当たって、通報・相談者と今日話したこと、今後の進め方などを確認しあうことは、これから事実調査をするうえでとても重要です。

 

 ○追加の申し出の有無の確認

 通報・相談者が満足いくよう全て話せたかを確認します。付け足すことはないか、他に話したいことはないか、質問したいことはないかを確認します。

 ○通報・相談内容、解決イメージ等の確認

 通報・相談内容について再確認し、問題解決に当たっての希望、対応時の配慮などがあれば申し出てもらいます。

 ○問題解決着手時期等の確認

 対応に時間がかかると想定されるときはその旨を伝えます。問題解決に当たって内容を必要関係部署に伝えること、調査に必要な場合、被通報者とされる人に通報のあったことを伝える旨の了解を得ます。

 ○口外の禁止

 通報・相談者等に対して、通報・相談出内容を口外しないよう約束してもらいます。

 ○匿名の場合の確認

 匿名の場合、通報・相談者に結果のフィードバックができない等といった、できないことがあることの了解を得ます。

 

3.対応方針の決定

 通報・相談者からの聞き取りが終わったら、まず事実調査の是非について判断し、調査が必要な場合は、今後の事実調査等の対応方針を決めます。ここでいう方針の決定とは、事実調査をどのように進めるかのシナリオ作り(誰が、どのように、いつまでに)をするということです。

 ○方針決定に当たっては、必要があれば、当該部門と協議・調整を行います。

 ・事実調査の要否の判断

 ・物証の確保

 ・人証の対象および事情聴取の順番

 ・重要度・緊急度・影響度の判定とその対応策

 ・専門家への対応方針への助言要請(法令、医療、会計、監査、人事等)

 ・情報開示の範囲(情報開示の範囲はその都度相談者の了解を得ることが重要)

 ・調査担当者の選定(対応は複数で行い、問題によってはチームで対応)

 ○問題解決への道筋の主な種類

 ①聞き取った内容からコンプライアンス上の問題はなく、対応不要と判断

 ②聞き取った内容を基に通報・相談者等にアドバイスをすることで問題解決

 ③聞き取った内容を基に調査を行った結果、是正不要。もしくは事実なしと判断

 ④聞き取った内容を基に調査後、不正、違反等の事実があれば是正措置

 ⑤聞き取った内容を基に調査後、被通報者や上司に注意・指導を行い問題解決

 ⑥聞き取った内容を基に調査後、被通報者に対して懲戒処分(謹慎、減給、出勤停止、懲戒解雇など)を行ったり、当事者を引き離したり懲戒的な意味を込めた人事異動を行ったりすることで解決

  

4.調査の実施

 事実調査は、通報・相談者の通報・相談内容に基づき決定された方針に従い、迅速に行うことが求められます。事実調査に当たって常に配慮しなければならないことは、調査権限の明確化と情報の一括管理、そして秘密の保持と説明責任です。

 事情聴取や物証確保に当たっては、当該対象者に秘密の保持を厳守するよう約束させるとともに、調査に関するすべての対応について正確な記録を残しておくことが必要です。

   

4-A 不正・違反の事実確認のための基本的対応

  事実確認は、通報・相談者からの通報・相談をきっかけとして、発生した事象が不正・違反行為に当たるか否かを判断するために行うものです。そのために必要なデータの収集と関係者からの事情聴取によって公正かつ客観的に判断するための情報を収集します。重要なことは、様々な状況を想定して、それに柔軟に対応できるよう事前準備をしておくことです。

 特に大切なのは、事実が確認できる前から被通報者を“犯人扱い”しないということです。通報・相談者の通報・相談内容と同様、被通報者の言い分もしっかり聴き、双方の申出に齟齬がある場合は、再度確認するなど必要な対応をとり公正な判断を行います。この場合これまでの仕事ぶりや社内の位置づけ等よって先入観を持つことのないよう留意します。

  

■社内調査の具体的進め方 ~証拠化へのプロセス~

 ○被通報者に対する事情聴取で念頭に置くべきポイント

 ・話しやすい環境を作る。

 ・犯人扱いしない。

 ・しっかり弁明させる。

 ・企業の円滑な運営上必要かつ合理的なものであること。

 ・事情聴取は長時間に及ぶと、双方にとって心理的負担が多く好ましくない。

 ○調査方法

 ・調査の目的を示し本人の協力を得る。必要があれば就業規則等を示し協力を要請する。

 ・通報・相談の事実を伏せて調査する場合は、別の目的を作る必要がある。

 ・自主的に話をしてもらうための工夫をする。

 ex

 日常の業務貢献について感謝の意を表す、日常の業務遂行において何か問題がないか確認する、関わりない内容が出てきてもしっかり聴く、公平で客観的な第三者の立場に立って聴く、など。

 ・聴取は複数人で行う。1人が聴取を行い、他の者が記録と聴取状況全般を確認しながら進める。

 ・調査対象者が複数いる場合は、個別に話を聞く。

 ・関係の薄い人からまず話を聞く。順次核心の人へと話を聞くほうがよい場合が多い。

 ・誰を調査対象者とするかは、慎重に検討が必要。必要以上に範囲を広げることは好ましくない。

 ・調査の事実および協力について口外しないことを約束させる。

 ・通報・相談者探しや通報・相談者への報復の禁止について説明し、理解、了承を得る。

 ○証言の確認

 ・供述の内容が客観的証拠(物証、第三者の供述)と合致し信用できるかどうか。

 ・供述をうのみにせず、不明な点は的確な質問を投げかけ、詳細な事実を明らかにする。

 ・通報・相談者と被通報者の内容が食い違う場合は、再度通報・相談者にヒアリングを行い、内容について再確認する。

 ・得られた人証および物証を整理し、事実関係を十分把握したうえで、事情聴取する。

 ○証拠の確保

 ・メールの送受信記録、添付ファイル、個人使用のパソコン上のデータ、 会社のサーバー上のデータ、携帯電話の記録、関連文書など、証拠物を確保する。

 ※正当な理由なしにデータの削除等が行われれば、社内規定に違反する行為に該当し、ときには犯罪行為となり得る。その場合、行為者はもちろん、会社の責任を問われる場合もあり得る。データの訂正、削除等は、その合理的理由と訂正記録を残しておくことが必要。

 ○社外に対する調査

 ・必要であれば社外に対する調査を行う。

 ・秘密保持に関し、調査対象者と約束を交わし、その記録を取っておく。

 ○時間が経過してしまった場合の証拠収集

 ・証拠を時系列に並べ替え、今起こっている問題への関連性、影響等を明確にする。

 ○データ解析

 ・特定文書へのアクセス、ダウンロード、インターネットの閲覧履歴。

 ・外部メディアへのコピーの有無と記録メディアの特定。

 ・削除されたメールの復元などについては、社内に専門家がいない場合、コンピュータ解析会社を利用することも必要

 ○収集した証拠資料の分析・評価、検証作業

 ・事実が100%の真実であるかどうかの見極めを行う。

 ・処分を行うための証拠として十分であることを確認。

 ○他に同様の事実がないかの調査

 ・コンプライアンス上の問題があると確認されたときは、同様の問題が起こっていないか確認する。 

  

4-B 人間関係の事実確認のための基本的対応

 職場における人間関係の問題は、多くの場合日常的な職場における人間関係の積み重ねが背景にあって引き起こされるようです。通報・相談への対応を機に、起こった事実だけではなく、日常の職場における人間関係にも関心を持ち、だれもが働きやすい生産性の高い職場を目指すことも必要です。

 

 事実確認のためには、以下のような内容の確認が必要です。

 ○ 通報・相談者と被通報者の職務上の接点。

 ・上司と部下のように直接の指示・命令関係にあるか。

 ・同じ職場の同僚か。

 ・直接の業務関係はないのか。

 ・職務上とは別にどのような感情を持っているか。(恋愛感情、好意、無関心、嫌悪感など)

 ○ 通報・相談者から通報・相談された行為について。

 ○ 問題とされる行為について、相談者が不快であると感じていることを認識しているか。

 ○ その行為について合意していると考えていたのかどうか。

 ○ その行為がセクシュアルハラスメントという認識があったかどうか。

  

4-C 通報・相談取り下げの申し出への対応

 通報・相談者が誤解していた問題が、相談対応によって了解されたり、自分で対応することが可能と判断されたりした時には、通報・相談者が申し出を取り下げることがあります。窓口がその取り下げを受け入れた場合は、その後の対応はとりません。

 ただし、取り下げはなされても、窓口がその内容についてリスク管理上門対と考えるケースについては、対応することがあります。

 

 ・通報・相談者は取り下げを望んでいるので、その通報・相談に基づく対応はできない。

 ・本来の業務チェックで対応を行う。だが問題が暴かれると誰がいいつけたのだと、通報者探しが行われることもあり、思わぬ二次被害が起こる心配もある。この様な事態に対処するため、本来業務内の対応であっても、十分な配慮と対応が求められる。

  

4-D 匿名の場合

 匿名での通報・相談については、事実調査と被通報者に対しての十分な配慮が求められます。

 

 ○ 行動観察

 ・当該行為が起こっている職場の管理責任者に対し、被通報者、関係者の行動観察を指示。

 ○ 周辺情報の収集

 ・当該行為に関わる物証の収集。

 ・当該行為に関わる関係者からの事情聴取を行う。事情聴取およびその内容につき口外禁止を守るよう指示。

 ○ 被通報者への事情聴取

 ・事実が確認されたときは被通報者への事情聴取を行う。

 ・ただし、匿名であるため、後日の通報・相談者の了解は得られないので、最初の通報・相談時に、事実が確認された場合には被通報者への事情聴取を行う旨の了解をあらかじめ得ておく必要がある。

 ○ 匿名の通報・相談者との連絡ルートの設定 この内容でOKかどうか確認

 ・通報・相談者からの再連絡を依頼。社内情報ネット上などで、匿名通報・相談者への連絡ルートを開設。

 ・受付日時と調査結果(事実の確認の有無のみ)を掲載し、窓口への再度の連絡を依頼。

 ・再度の連絡受付時には、通報・相談内容の確認をするなどして、本人であることを確認。

 

5.調査結果の分析

 問題解決に当たって大切なのが調査結果の分析です。この分析がしっかりなされることにより、早期に問題解決が図られるのです。

  

5-A 分析

 ○現状の把握

 ・何が起こったかを特定。

 ・その事実が問題であるか否かを判断。

 ・違反するルールの特定(法令、社内規則、行動基準、業界ガイドライン等)

 ・推測を事実と誤認することのないよう留意。

 ○原因の把握

 ・問題には必ず原因がある。さらに原因をもたらすさらなる原因もある。「なぜ?」「なぜ?」を繰り返し、真の原因を突き止める。

 ○問題の分析

 ・原因が明確にならない問題や、複雑に原因が絡みあった問題、簡単に解決できない原因のある問題については、問題分析を行って、関係する様々な要素を探り当て、問題を整理し体系化する。

 ・過去の事例を参考にする。

 ・同様の事例が他部署でも起こっていないかを調査する。

 ○不正な目的での通報・相談ではないかの検証

 ・稀ではあるが、悪意を持って対象者を貶めようとするものがある。

 ○想定したシナリオと合っているかの確認

 ・調査方針(シナリオ)はあくまで通報・相談者の通報・相談内容に基づくものであるため、調査結果を基に検証することが必要。

 

 5-B 再発防止策の検討  モデルケース含め具体が・・・

 再発防止策を策定するためには、事象とその原因を明らかにし、現状の回復を図るとともに、発生要因をなくすためのチェック機能を設け、環境の改善を行います。

 調査結果の分析の途中で、よりよいビジネスモデルが発想されることも少なくなく、正規の手続きを踏んで即実施することも問題提起を有効に活かすための大切な取り組みです。

  

5-C マスコミ対応の是非

 問題の影響が大きいもの、広く一般に影響するもの、社会の関心が高いものなど、企業活動においてその信頼に関わる問題については、マスコミへの情報開示が求められます。被害の拡大が懸念される場合、投資への影響が大きい場合、事故の発生が懸念される場合などは、特に緊急性が求められます。

 

6.通報・相談者への報告

 通報・相談者への報告は、迅速かつ適切な時期に行うことが大切です。

  

6-A 通報・相談者への報告内容

 通報・相談者への報告内容は、次のものがあります。

 

 ○確認した事実、または確認できなかった事実

 ・起こった事実について、通報・相談してくれたことに会社としての謝意を表す。

 ○会社が講じた措置

 ・被害拡大の防止、プライバシーの保護、通報・相談者への不当な取り扱いの禁止な

 ○発生原因と再発防止策

 ○不法行為者の処分

 ○その後の対応の依頼

・調査結果の報告と同時に、その後の対応について通報・相談者に依頼。

 ・当該事象に関連して発生する状況変化についての記録。

 ・問題を感じた状況変化について窓口への連絡。

  

6-B 通報・相談者が調査結果に異議を申し出た場合

 通報・相談者が調査結果に異議を申し出た場合、調査すべき新たな情報が提供された場合には再調査します。通報・相談者の通報・相談内容と調査結果に齟齬がある場合は、再度事情聴取し、会社としての判断を行います。状況によって事情聴取の範囲を拡大することも必要です。

 ・会社がこれ以上の調査は必要ないと判断した場合はその旨を伝える。

 ・通報・相談者が希望すれば公的機関を紹介する。このような場合に対応できるよう、公正に対応できる紹介先窓口の情報をあらかじめ持っておくことが大切。

  

7.是正措置・再発防止

 通報・相談窓口は、事実調査が終了し次第、結果を分析し、その原因、状況、影響範囲を明確にします。そのうえで再発防止策を策定し、より良い企業活動が実現できる職場環境の整備のための具体的実施策を検討します。

  

7-A 是正措置・再発防止のための具体策

 例えば、以下のような例があります。  

 ○仕事の進め方(マネジメント力)に関わるもの

 ・再発防止に向けた研修会の開催。

 ・発生事例の情報開示と行動基準の徹底。

 ・組織におけるマネジメントノウハウの教育。新しい時代の職場管理能力の向上。

 ・問題を自由に話し合える場の設定。

 ・コンプライアンスチェックの実践

 ・業務改善、チェック機能の設定。

 ・人事ローテーションの見直し。

 ・監査項目の見直し。

 ・業務改善相談窓口の設置。

 ・メンタルケアの徹底。医療部門との連携強化。

 ○職場の人間関係によるもの

 ・業務改善を目的とした勉強会の開催。

 ・日常の「声かけ」と業務遂行への関心。職場での存在価値の向上。

 ・上司、部下双方向からの“報・連・相”の活用。

 ・業務遂行への公正な評価。

 ・アンケート、面接などによる職場環境のリサーチ。

 ・職場全体の力量を上げる。“できる人”に負荷を集中させないための人材育成。

 ○職場の文化/風土によるもの

 ・職場で気になることを話し合って改善していくシステムの構築。

 ・達成すべき目標の明示と、その達成に向けた行動や判断を行ううえでの価値観や規範の共有。

 ・コンプライアンス最優先の企業経営の実践。

 ○コンプライアンスの正しい理解

 コンプライアンスへの正しい理解がなければ、それを守ろうとする意欲も十分ではなくなります。先ずは、自分にとって、自分の仕事にとって、自分が働く会社にとってコンプライアンスがどれだけ重要な意味を持つかを理解しなければなりません。

 ・管理職登用時のコンプライアンス教育の実施。

 ・通報・相談窓口機能の充実と周知。

 ・コンプライアンス問題事例集の作成と勉強会の実施。

 

7-B 再発防止策実施のポイント

 再発の防止のためには、その問題の原因が再び起こらないための対策を実施します。なぜ徹底されなかったのかの原因を探し当て、再発させないための具体的な対策が取られなければなりません。その原因は一つとは限らず、複数の要因が絡み合って起こるものも少なくありません。これらの原因を生まないための仕組みづくりが再発防止策となるのです。

 

 ○職場での良質なコミュニケーション

 異なる意見を組織のエネルギーとすることが問題解決の核となります。人に“違い”があってこその組織力なのです。“違い”を遺憾なく活かす仕組みを実現させます。

 ○原則に立ち返って対策を立てる

 発生した事象にとらわれることなく、会社の存在価値を考えることから始め、それを実現するための適切なマネジメントの体制を社会ルールに則って作りなおすことが最も早く効果的な取り組みと言えます。

 ○職場単位、仕事単位で考える

 適切なマネジメントの在り方について職場単位、仕事単位で考えてみます。きっと今まで以上に働きやすい職場環境づくりが可能となるでしょう。

  

7-C フォローアップ

 再発防止策を打った後にも、職場では、同様のことが起こりやすい環境が潜んでいます。常にリスクを想定し、チェック機能を働かせておくことが大切です。

 

 ○再発防止策の評価と見直し

 再発防止策を実施することにより新たな問題が生じることも考えられます。再発防止策を実施したら、一定の期間ごとにその評価をし、必要があれば見直しましょう。

 ○相談者へのフォロー

 相談内容によってフォローアップが必要と感じた場合は、例えば、3日、3週間、3カ月といった時期に相談者に連絡を取り、その後の職場環境について確認します。

 

8.情報管理と活用

 コンプライアンス問題に関わる情報の管理は、受付以降、コンプライアンス担当部署が一括管理します。相談受付から問題解決に至るまでの流れに沿って考えてみましょう。

 

8-A 情報管理の目的

 ○プライバシーの保護

 相談者や関係者のプライバシーを守るために情報の管理は重要です。事情聴取等で

 情報を収集する都度、対象者には情報を外に持ち出さない約束をします。

 ○問題の全体像の把握

 重要事項が抜け落ちると、改めて調査が必要になるなど、対応を大きく遅らせる要因となるため、調査を迅速かつ効果的に実施するにあたっては、問題の全体像をしっかり把握することが重要です。

 ○行政・マスコミへの対応策

 さらに、再発防止策が的確に講じられても、通報・相談者をはじめ、従業員、株主、投資家、行政、一般消費者、マスコミ等への説明責任が生じます。また、訴訟へ問題が持ち込まれれば、裁判の場で対応への取り組みを証明する必要があるのです。

 この様にコンプライアンス問題の解決に向けた取り組みを正確かつ詳細に記録し、管理しておくことは、企業が責任を果たすうえで重要な取り組みなのです。また、これらの情報は、窓口担当者はもちろん、従業員全員にとっても貴重な財産であり、問題解決に向けた取り組みの指南役になるといってもよいかもしれません。

 

8-B 情報の活用

 情報の活用については、会社の責任を果たすために役立つ、いくつかの使い方があります。

 ・頻度の多い問題を洗い出し

 ・リピーターの検索

 ・問題別原因の調査

 ・年間レポートの作成、経営トップへの報告

 ・過去の事例の取り出しと対応例の確認

 ・担当者の引き継ぎ

 ○窓口担当者の迅速かつ的確な対応に活用

 窓口担当者は、どのような問題を提起されてくるのか、自分が的確に対応できるのか、不安な気持ちで取り組んでいますが、この様な状況の助けとなるのが過去の取り組み事例です。

 コンプライアンス問題には様々なケースとそれに絡む複雑な要因があり、これらの問題を過去の取組事例から事前に学んでおくことにより自信を持って通報・相談に応じる心構えができるのです。

 ○企業活動におけるコンプライアンスの意義と仕事との関わりの理解に活用

 日常の企業活動において、常にコンプライアンスの意識を持って活動しなければならない私たちにとって、企業活動におけるコンプライアンスの意義と仕事との関わりを理解することは重要です。実際に私たちの職場で起こった取り組み事例からその意味を学ぶことが、いちばん実践的と言えるでしょう。

 

8-C 情報のデータ管理

 情報を効果的に活用するためには、目的に合わせて情報をどのような分類で管理するかにかかっています。このため、情報を引き出すための分類コード(検索キー)が大切になるのです。

 

 ○情報検索キーの設定例

 ・相談者 ・顕名か匿名か

 ・相談対象者

 ・相談日時 ・連絡方法(電話・メール・手紙・Webページ、面談の別)

 ・発生日時 ・発生職場

 ・発生事象(経済問題・人間関係問題・労働問題・公正取引問題・会計処理問題・商品安全問題など)

 ・関連法規と社会ルール

(憲法・経済関係法・労働関係法・製品安全関係法・公正取引関係法・消費生活関係法・環境関係法・国際関係法・条約・外国法・業界ガイドライン・国際基準・民法不法行為・就業規則・行動基準)

 ・発生原因

 ・再発防止策

(業務改善・職場改善・生産中止・行為の差し止め・個人指導・ルールの改正・教育の実施・メンタルケア・グループ企業への対応)

 ・行為者の処分 ・損害の賠償

 ・対外的対応(行政への報告・マスコミ発表・リコール・取引停止・サプライチェーンへの対応)

 ・訴訟の有無 ・外部相談の有無

 ・対応終結日時

 ・その他(必要に応じて検索キーの設定)

 

 9.報告・情報公開

コンプライアンス問題への取組について、その情報を共有することは、対内的には、問題の再発を防止するとともに、日常業務におけるコンプライアンス意識の高揚に役立ち、組織を上げて問題解決に取り組む企業文化を生み出す力となります。

 対外的には、コンプライアンス上の問題に迅速かつ的確に対応し、問題の再発を防止するとともに、ステークホルダーにそのリスクを伝えることで、被害からの回避を可能とする取り組みは、社会からの信頼を高めることにもつながります。

 

9-A トップ、コンプライアンス委員会への報告

 コンプライアンス委員会は、社長直轄のコンプライアンス推進の最高機関であり、役員および従業員(従業員はもちろん非正規社員等も含みます)がコンプライアンスを確実に実践することを支援、指導する役割を担っています。

 コンプライアンス委員会がこの様な役割を果たすためには、社内の問題をすべて把握し、適正に対処する責任があるといえます。

 この様に考えると、談窓口(職制・社内外相談窓口)に通報・相談があった内容はすべてコンプライアンス委員会へ報告する必要がありますが、1件1件詳細に報告しその対応を検討していては、対応の迅速さを欠くことになり現実的ではありません。そこで、一定の基準を設けて、詳細を報告する問題と発生の類型・件数・要因・措置・再発防止策の概要を報告する問題に分けることが合理的です。

 ○詳細報告基準

 ・対外的な影響がある問題

 ・訴訟になるおそれのある問題

 ・懲戒処分の対象になる問題

 ・その他影響度(範囲・金額)の大きい問題

 全てすべての案件について記録を取っておき、必要があればいつでもコンプライアンス委員会が閲覧できる環境を整えておきます。

 

9-B  社内への情報公開

 従業員が具体的な事例を認識することは、コンプライアンスを推進する上で大きな効果があります。

 効果の1つは、どのような行為がコンプライアンス上問題となるかを学ぶことです。効果の2つ目は、「おかしいことに気づいたら相談してよいのだ」という企業文化が生まれるということです。「気づいたら即相談」そして「相談があったらすぐに手を打ち、業務の改善につなげる」ことにより働きやすい職場環境が築けるのだということを知るのです。

 また、事例を通じて職場全体でコンプライアンスについて考える取り組みは、職場のコミュニケーションを高め、知らず知らずのうちに協働意識を高める効果もあるのです。

 

9-C 社外への情報公開

 コンプライアンス上の問題がステークホルダーに大きな影響を与える可能性がある場合には、その事実に関し情報を公開することが必要です。

 情報を公開する意義は、消費者の命や身体を守るため、事故の再発を防止するため、投資家の誤った判断を避けるため、説明責任を果たすため、そしてコンプライアンスを実践していることを示すためなどが考えられます。

 今日の情報化社会では、不祥事を隠し通すことは不可能になっています。

 むしろ、たとえ恥ずべき不祥事であっても、ステークホルダーの利益を守るための適切な情報公開と誠実な対応により企業の信用は損なわれず、さらに評判が高まることもあるのです。

 社外への情報公開に当たって徹底しなければならないことは、担当窓口を一本化することです。統一が図られていないと、個人的意見が会社の意見のように取り扱われたりしてしまいます。こうなると会社の信用は一瞬にして失墜します。

 

 ○監督官庁への報告

 社会的に影響の大きい問題については、迅速に監督官庁に報告すべきです。また、マスコミに情報公開する場合は事前にその旨を監督官庁に伝えておくことが望ましいでしょう。当該事業に関する特別法律には種々の報告義務の定めがありますので必ず確認しておきます。

 ○マスコミへの情報公開

 マスコミは企業にとって他のステークホルダーとの接点の役割を果たしており、その影響力は大きなものがあります。情報の公開に当たっては、分かりやすく、専門用語や外国語・略語はできるだけ避け、平易な日本語で丁寧に説明します。簡潔かつ要領を得た説明が望まれるでしょう。

 ○一般消費者への情報公開

 問題が起きた時、なにを最優先するかが企業に対する信頼を左右します。被害が起きる可能性があるならば、まず警告を発し、製品の出荷を一時ストップさせ、それから原因を究明し、問題がなければその旨を表明し、消費者に安心してもらうことが大切です。そういったケースでは、安全を第一に考える企業として、社会から高く評価され、企業のブランド価値を高めるものです。

 ○グループ企業、取引先、サプライチェーンへの情報公開

 グループ企業はもとより、取引先、サプライチェーンも企業活動を行う上でのパートナーです。

 また、企業活動の上流(原材料の調達等)から下流(お客様への提供)までの流れのなかで、様々な企業が国境を越えて協力し合いながらサービスを提供しています。この流れのいずれの場面においても、コンプライアンスへの取組は共通のルールでなければなりません。

 ○株主・投資家への情報公開

 株主・投資家に対し、十分な情報を提供し、経営の透明性を高めるとともに、説明責任をしっかり果たしていくことは、株主・投資家に正しい判断を可能とするとともに企業の資金調達を容易にし、企業活動をより活発にする効果があります。

 最近では、社会のニーズにこたえ、社会責任をしっかり果たしている企業に対して投資する社会責任投資(SRI)の規模が増大するなど、社会ルールを尊重し事業運営する正直な企業が生き残る時代なのです。

 

 

 

以上